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「ヴィヴィアンよ。この男は俺に喧嘩を売っているのか?」
「喧嘩?滅相もございません。わたくしめはしがない一介の商人でございます」
「商人?ふむ、お前とお前に我が国と妻となるヴィヴィアンの実家のあるこの国との貿易を許可してやろう」
「「まことにございますか!ありがたく、そのお役ちょうだいいたします。かならずやお気に召します品々をお届けにあがります」」
商人はどこまで行っても商人だった。
婚活パーティに参加していた貴族たちは突然の展開についていけず静まり返っていた。
そんな様子を見ていた王弟とモンジョルド国次期王の妹は揃って、その場から消えた。
「ご無沙汰していますね、姫」
「えぇ、確か大使として我が国に戦争回避の嘆願をされに来られた以来ですもの。かれこれ五年かしら?」
「大使として伺った私を姫が気に入ってくださったおかげで戦争回避ができたのですから頭が下がりますね」
「それだけではないですね」
「えぇ、私もまた姫を気に入ってしまった。人生とはままならないものですね」
五年前には互いに思いあっていることを知っていながら公にすることはできなかった。
それは姫の兄も同じだった。
「お兄様も私もこの時を待ったのです。お兄様が戴冠式を迎える時まで」
「戴冠式を迎えると決まった王族は自分で伴侶を決めることができる」
「えぇ、お兄様は父王とは違い私のことも考えてくださいましたから私も伴侶を自分で選ぶことができるのですよ。今度こそ返事をいただきますよ。わたくしの伴侶になりなさい」
「仰せのままに、我が姫、いえ、我が妻よ」
そのままパーティ会場に戻ると、騒然となっていた。
ヴィヴィアンがモンジョルド国の次期王に求婚されていることに気づいた王が詰め寄っていた。
「どういうことだ!ヴィヴィアンを嫁がせる話は断ったはずだ!」
「確かに断りの書状は貰った。だが、欲しいものは何としても欲しい。それに断れば攻め込むという書状も送ったはずだが?」
「だが、その話は五年も前の話だ。それに五年もの間、何もして来なかったであろう」
この国の行く末を見守るため貴族たちは固唾を飲んで固まっていた。
一年に一回、王家と縁戚になれるチャンスと気楽に来ていたが今はお通夜のように静かになっていた。




