54. 翔子と転移の原因
「ここも終了で良さそうだな」
「ですねー」
智沙さんとマルリーさんが辺りを見回す。
第七階層の最後の部屋にはスケルトンだけじゃなくて、ゴーストもいてちょっとびっくりした。
まあ、普通にシールドバッシュで消滅してたけど……
「なんかさー、ゴーストが『休みをくれ〜』とか『残業代〜』とか言ってたような気がするんだけど……」
「やっぱダイクロから派遣で過労死した人とかなのかな?」
「美琴さんも言ってたしね……」
陥没があってダイクロをクビになっちゃったけど、私的には幸運だったのかな。白銀の館での本当のお仕事は表にできないけど、お給金はすごくいいしね。
「第八階層に降りる前に休憩にしよう」
「ですねー」
智沙さんの提案にマルリーさんも賛成する。第八階層へと繋がる階段を覗き込んでいたディアナさんも戻って来た。
スマホを見ると午後一時前。お昼ご飯にはちょうどいいかな?
「予定よりも随分と早いペースですねー」
「そうなんです?」
「向こうでは一日一階層ぐらいでしたねー。やっぱり翔子さんの加護のおかげですねー」
褒められて嬉しくないわけじゃないけど、やってることというと切れそうになった加護をかけ直すだけなんだよね。
チョコ、智沙さん、マルリーさんが頑張ってくれてるおかげだし、私が神聖魔法を使えるのもヨミのおかげだしね。
「ありがとね、ヨミ」
「ワフン」
しゃがんでヨミの頭を撫ぜてあげる。
「皆、こっちへ。腰を下ろして昼食にしよう」
戦闘前に置いたバックパックを回収した智沙さんが、そこからレジャーシートを取り出して敷いてくれたようだ。場所が部屋の隅っこなのは、万一のためかな?
「はー、よっこいしょ」
そう言って腰を下ろすマルリーさんだけど、そのセリフはおばちゃん……っと寒気がしたのでやめよう。
チョコがお弁当としてもらったサンドイッチを配り、それを頬張ってホッと一息。
「第八階層と第九階層もこんな感じで続くんですか?」
「そうだな。ほぼ変わらない感じだと思う」
「じゃ、作業っぽい感じになりそうですね……」
加護を掛ける、先に進む、アンデッドを倒すの繰り返し作業。
気が緩まないようにしないといけないんだけど、ついついがありそうで怖い。
「魔物退治なんてそういうものですよー」
「害虫駆除のようなものという認識であっているだろうか?」
「ですねー。獣系の魔獣なんかですと素材や魔石という戦利品がありますがー、アンデッド系はそういうのがほとんどないので不人気ですしー」
ゼルムさんも普通の熊の方は解体してたもんね。そいや、あの肉は結局、ゼルムさんたちが食べたのかな? 毛皮とかは持って帰ったみたいだけど。
「ほとんどない、ということは?」
「アンデッドでも剣や鎧を持ってる相手もいますのでー」
「ああ、なるほど……」
今日倒したアンデッドたち、スケルトンは全然装備とかなくて、たまに『かつて服だったもの』を身につけてたぐらいかな。
「やっぱり、アンデッドって……もともと人だったんですよね?」
「人だったり魔物だったりだな。今日のスケルトンにもゴブリンやオークのスケルトンが混じっていたようだ」
「それにしては多すぎじゃないです?」
この階層だけで百体以上のアンデッドを倒したんだけど、それだけダンジョンが回収したってことだよね?
第八も第九も同じぐらい居て、しかもこっち側で半分だとすると、すごい数のアンデッドが回収されてたことになるんだけど……
「君たちの世界で、このダンジョンはどんな場所にあったか聞いてもいいだろうか?」
「あー、話していませんでしたねー。ディアナさん、お願いしますー」
振られたディアナさんが話し始めたのは、向こうの世界——アイリスフィア——で起こった出来事だった。
***
「パルテームって……『慈愛の白銀』ヨーコさんを勇者召喚した国ですよね?」
「ですねー」
そのパルテームの西にこのダンジョンがあるとのこと。
「えーっと、大丈夫なんです? なんか酷い国ですよね?」
なんというか半島の北側の国みたいな独裁政治で『白銀の乙女たち』を読む限りでは、王族や貴族が民を虐げてる感じだったけど。
「パルテームは滅亡した。正確には魔王国の支援を受けた貴族が王族を追放できたわけだが、それによってまともな国に変わったわけだ」
「え、魔王……国?」
「あー、ヨーコも勘違いしてましたけどー、魔王様は別に悪い方じゃないですよー」
そ、そうなんだ……。まあ、人間の方がよっぽどタチ悪かったりするもんね。
いや、それは今はどうでもいいんだった。
「王城に踏み入った反乱軍だが、王族は転送の魔法陣で逃亡済み。そしてその逃亡先が……」
「今いるこのダンジョンということか」
「ですねー」
「なんでここに?」
「……王族が気に入らない者を処刑するための転送陣だったそうだ。拷問を受けてから第十階層に送られていたらしい」
その言葉にドン引きする私とチョコと智沙さん。
「その転送陣を使って逃げたわけですー」
「そんなところに逃げてなんとかなるんですか?」
「近衛騎士や黒神教徒の魔術士たちもいなくなっていたそうだからな」
ちゃんとした装備とそれなりの人数で逃げたんだ。
投降しても死刑は免れないっていう認識はあったんだね……
「そのクーデターに成功した側は何も手を打たなかったんです?」
「国内の安定が優先で手がまわらない、と言ったところか」
「ですねー」
ダンジョンに潜って捕まえるほどの戦力は割けず、入り口を封鎖するのが精一杯だったそうで。
結局、傭兵を雇って調べさせる程度のことしかできなかったらしい。
「ゼルムさんが『未来の覇権』っていう大手ギルドが探索してたとか言ってましたが」
「探索の頭数を急いで用意できるのは、あのギルドぐらいだろうからな。捕らえるまで行かずとも閉じ込めておければ、いずれは投降すると踏んでいたのだろう」
「ゼルムさんたちが『白銀の館』の依頼で扉をつけに行ってたのは?」
「適当な名目をつけて、様子見に行ってもらってただけですよー。一応、裏から筋は通してありますしー」
……そうだったのね。ゼルムさん、言ってくれればいいのにって気もするけど、そういう裏の意図は知らなそうなら話さないって方が正しいのかな。
「それで時間をかけて捕縛しようと考えていたら……ということか」
「こちらの世界へ逃げようとするとは思いませんでしたねー」
「それが暴走して、こちらの皆さんに迷惑をかけてしまったわけだ。申し訳ない……」
いやいや、ディアナさんやマルリーさんが謝ることじゃないでしょうと。
でも、そうなると怪しげな時空の狭間になっちゃった第十階層に、その王族やら手下やらが漂ってるというか……
なんかこう封印ってできないのかな?




