141. 翔子とチョコと大事な話
羽田に着いたのはお昼過ぎ。空港ホテルのレストランで『すごく高そうな』カレーをみんなで。
ミシャ様、カレーが久しぶりすぎて感激して泣いてた。そういえば、六条邸でも旅行中でもカレーって普通すぎて選択肢になかったもんね……
「到着しました」
その言葉とともに、白いリムジンのドアロックが外れる。チョコがドアを開き、ぞろぞろと降りる私たち。
ミシャ様が最後に、
「智沙さん、運転お疲れ様でした」
とねぎらいの言葉をかけるのカッコイイ……
「なんだか」
「久々な感じだね」
場所は当然六条邸。ここ最近はあっち行って帰ってきて、こっち行って帰ってきての繰り返しな気がする。
「美琴さん、すいません。ちょっと絵理香と二人きりで話がしたいんですが」
「はい、今日帰ることは伝えていますし、予定は空けてありますから、ご案内しますね」
うん。なんかやっぱり気になることがあるっぽい?
「ミシャ、ボクたち先に部屋に戻ってるよ」
「うん、ごめん」
ルルさんはなんか知ってる? そういう雰囲気でもないっぽいけど。
「荷物を運ぶのを手伝おう」
「ああ、すいません」
チョコが旅行荷物を別邸に運ぼうとして、ルルさんとディアナさんに手伝ってもらっている。智沙さんは車を車庫へと戻しに行ってしまい……
「バウ」
「ワフッ!」
「ああ、うん。散歩行こうか。ずっとじっとしてたから二人も疲れたよね」
ヨミはともかく、クロスケさんからって珍しいんだけど、これはミシャ様に気を遣って? うーん……
「こっちは気にしないで、ゆっくり散歩してきて」
「うん」
荷物は任せて庭の方へ。
あっちこっちとはしゃぐヨミに対し、石畳を悠々と歩いていくクロスケさんがカッコ良すぎる。
ふと見上げた場所は館長さんの部屋。多分、今、ミシャ様と何かを話し合ってるんだろうけど……
***
「うーん、気になる。気になるけど……」
「気にしてもしょうがないんだよね」
部屋に戻ってきて、チョコと自問自答(?)してると、ドアが軽くノックされる。この音は美琴さんかな?
「美琴です。翔子さん、チョコさん、良いですか?」
「「はい、どうぞー」」
ドアが開いたところで、チョコが美琴さんのために席を譲ろうとしたら、
「あ、いえ、館長がお呼びだとのことです。ルルさんやディアナさんも誘って全員で来てくれと」
「「あ、はい」」
館長さんと話し合って何か決めたのかな。
「美琴、翔子君たちも大丈夫か?」
「あ、はい、今行きます」
廊下の方から智沙さんの声。ルルさんたちを呼びに行ってたっぽい。
チョコと頷き合って席をたち、美琴さんの後ろについて廊下に出る。ルルさんとディアナさんが手を振ってくれる。
「お待たせしました。行きましょうか」
「ああ」
「会議が終わったら夕食だな」
「今日も楽しみ!」
なんだろ。二人とも全然気にしてないっていうか、それだけミシャ様を信頼してるのかな?
***
「おう、お疲れ!」
応接室でいつもの席に座ってにっこり笑顔で迎えてくれる館長さん。ヨミが駆けて行って膝に飛び乗って撫でてもらうところまでワンセット。
向かって左隣の長椅子にミシャ様。その隣にルルさんが座り、さらに隣にディアナさんが座る。
私とチョコが反対側の長椅子に腰掛け、その隣に美琴さん。逆側のお誕生日席に智沙さんが腰を下ろした。
「ワフッ」
ヨミが私の膝の上に戻ってきて……クロスケさんはミシャ様と館長さんの間に寝そべる。かっこいい……
「さて、どうだったかは美沙に聞いたからその報告はなしでいいぜ。で、ちょっと大事な話が翔子ちゃんとチョコちゃんにある」
「「はい?」」
私たちに大事な話ってなんだろ? いやまあ、菊媛お姉様から頼まれた件に絡む話なんだろうとは思うけど。
「美沙、説明頼むわ」
「うん。えっと、都内のダンジョンの第十階層、あの混沌空間を一時的に切り分けて、悪霊を退治するって話はしたよね」
「はい」
「その切り分けなんだけど、こっちの第十階層と向こうの第十階層で同時に魔導具を使う必要があるの」
ふむふむ、なるほどなるほど。
「それは本当に同時に起動する必要があって、翔子ちゃんにこっち側で魔導具を、チョコちゃんにあっち側で魔導具を動かしてもらうつもりでいたんだけどね」
あー、同時にってなると、私とチョコがやるのが一番だよね。私たちなら「せーの」ってやって同時になる自信あるし。
「あの、それで何か問題があるんでしょうか?」
「その後、菊理媛命様の勾玉を祀るとですね……」
「「あっ!」」
ああー、神樹を経由しての行き来がしばらくできなくなるって言われたんだった。
「チョコ君がこちらの世界にしばらくは戻れなくなる、と?」
「はい……」
神妙な面持ちでそう答えるミシャ様。
うーん、しばらくってどれくらいなんだろ? 個人的な感覚でしばらくっていうと一ヶ月ぐらいだけど、神様が考えるスパンだもんなあ。下手すると五年十年、いや、もっとかも? なんだけど……
「えっと、それで何か問題あります?」
「私が向こうでお世話になって、翔子がこっちに残るなら特に問題ないのでは?」
だよね。いやまあ、チョコが向こうで一人ぼっちになるとかだと嫌だけど。
「おい、いいのか、チョコちゃん。しばらくこっちに帰ってこれないんだぞ? その『しばらく』ってのもどんだけか、さっぱりわかんねーんだぞ?」
「うーん、さすがに向こうで一人ぼっちになるのは勘弁ですけど、白銀の館でお仕事を紹介してもらえればと」
うんうんって感じで、チョコが私と頷き合いながら話すと、ミシャ様が慌てて答えてくれる。
「それはもちろん私たちがサポートするし、マルリーさんたちのお仕事を手伝ってもらえたらすごく助かるし。転移の件とかで仕事はたくさんあるんだけど……」
「そういうことなら全然良いです。だよね?」
「もちろん。私なんだし全然良いと思う」
チョコが一応確認してきたのでそう答える。
こっちはこっちで転移してきた他の場所の調査とか、場合によっては魔素の回収も必要になるので私が。
逆にあっちの転移元はチョコが調査すれば良いんじゃないかな。マルリーさんたち白銀の乙女のサポートってことで。
「あ、さすがに私とチョコが逆はちょっと悩みますけど……」
「ああ、そうね。ってか、町子さんとかに説明が面倒になるので……」
その会話にミシャ様が不思議そうな顔。美琴さんも智沙さんも「え、それでいいの?」って顔なんだけど、館長さんだけはちょっと面白そうな感じ?
「ほらな、美沙? あたしの言った通りだったろ?」




