131. 翔子と再会
「翔子さん、これを」
「あ、はい」
翌朝。朝食が終わって始業開始時間になってから、美琴さんが向こうから来ていた手紙を渡してくれる。
「えーっと、これはルナリア様宛てっぽいですね」
別の封筒に入れるのがめんどくさかったのかな。三つ折りの便箋が別に一枚あり、向こうの言葉で書かれてるので、そのまま机の上に避ける。
「えーっと、まずは設置ありがとうございます、と。別紙はルナリア様宛てだけど、マルリーさんとサーラさんも目を通して欲しいそうです。
……おみやげの中身と量をチェックしてくださいと」
「はいー」
「だよねえ」
納得するお二人と憮然とするルナリア様。こういうところもお嬢様っぽい。
要するに、向こうでありえない素材——化繊とかプラとか——は避けてねっていう、私が行く時も守らされたやつ。
「で、本題なんですが、三日後のお昼過ぎに神樹のところにルナリア様を迎えに行きますと。詳しいことはその時に話してくれるそうですが、マルリーさんとサーラさんも戻ってもらうそうです」
「はいー」
「あらら、美味しいご飯ともお別れか。でもまあ、そろそろ戻らないとって思ってたしねえ」
そこはまあ、また遊びに来てくださいということで。フェリア様も来たがってたし。
「そう。で、ミシャだけが来るの?」
「えーっと、ミシャ様とディアナさんとルルさん? あとクロスケさん?」
「いつものメンバーね」
聞いたことないお名前が二つ。っていうかクロスケさんって日本人すぎる名前なんだけど?
「こっちに滞在するんでしょーかー?」
「そのおつもりのようです。先に館長に来ていた手紙を渡したんですが、ミシャ様が来る日の予定は全てキャンセルしろと……」
うわぁ……うわぁぁぁ……。館長さん、本気すぎる。ってか、ダンジョンまでついてきかねない勢いなんだけど。と美琴さんを見ると、
「さすがに一緒にダンジョンに行くのは止めましたよ」
デスヨネー。
***
ルナリア様たちが帰り、代わりにカスタマーサポートさん——ミシャ様たちが来るまでの数日間。おみやげを買っては、美琴さんの転送の箱で向こうへ送るの繰り返し。
大量の甘味だけど、まあまあ日持ちするやつに限られる感じ。あとはこっちにいる間に着替えた服とか。
向こうで受け取ってくれるのはシルキーさんらしいけど、何度も何度もすいません……。転送にも魔素が必要なんだけど、そのための魔晶石が何個も届いたり。
「ワフッ!」
神樹が見えてきて駆け出すヨミ。ここが好きみたいだし、週一ぐらいで連れて来てあげたいんだけどね。
「予定の時間までまだしばらくありますね」
「では、お茶にしようか」
今日は当然というか美琴さんも一緒。ちなみにミシャ様が来るということでついてきたがった館長さん、ルナリア様との挨拶が終わった後もブーブー言ってました……
「はい、ルナリア様」
「ありがとう、翔子。随分お世話になったわね。いろいろと楽しかったわ」
「そう言ってもらえると」
接待成功! ってことでいいのかな? まあ、こっちの世界だと目に映るもの全てが珍しいだろうし、飽きないとは思うけど。
「でも、不思議ね。どうしてこちらの世界は皆忙しそうなのかしら」
「うっ、それを言われると辛いですね……」
なんというかこう「周りみんな忙しそうだから、自分も忙しくしないと」的な? そんなことを考えていると美琴さんからフォローが入る。
「向こうの世界は時間にもっと緩いというか、分とか秒とか無いんですよね? そのせいでは?」
「あー、そうですそうです。時間を知る方法って教会が鳴らす鐘の音だけかな? それも日が出てる間だけぐらいで」
時間にアバウトにならざるをえないというか、今が何分前だから急がなきゃとかいう考えも起きない感じ?
「まー、私やサーラはなんとなくわかるんですけどねー」
「これね」
そう言って二人が見せてくれたのは腕輪。ケイさんもつけてたし、確かディオラさんもつけてたはず。そういえば、なんかケイさんがそれでチラッと確認してたような。
「それってやっぱり時間がわかるものなんです?」
「はいー、鐘が鳴る時間がだいたいわかりますよー」
むう、ケイさんには断っちゃったけど、ちょっと欲しくなってきた……
「なので、そろそろかな?」
サーラさんがそう言った瞬間、神樹の葉がざわめく。そして……
『おーい、翔子! おるか!』
「はいはい、いますよ。ってか、フェリア様がなぜ……」
まさかルナリア様がちゃんとおみやげ買ってるのか確認に来たの?
『いいから早う樹洞を開けい』
「はいはい」
じゃ、神樹の精霊さんの出番ですということで、精霊石を取り出してお願いを。するすると樹洞が大きく広がっていく。
先に向こうからミシャ様たちが来る予定だけど……まずはフェリア様かな?
「お、来たみたい」
軽くしゃがみ込んで覗いてたチョコがそう言ったところで現れたのは、やっぱりフェリア様。必死なスピードで飛んできて、私のおでこに激突する。
「翔子! ドライマンゴーをくれ!」
「いや、フェリア様来るとか知らなかったし、持ってきてないですって」
来るって知ってたら持ってきたかどうかは別問題。多分、持ってきてたけど……
「そうか、そうよの……」
しょぼーんとしてふらふらと飛んでいき、ルナリア様の肩へと。
「翔子」
チョコが呼ぶので振り向くと……
「おー、向こうと変わらないね!」
「ここはまだダンジョンだからな。外へ出ると驚くぞ」
先頭には褐色の女の人。すごく快活な印象なんだけど、腰に戦槌がぶら下がってて急に物騒。
続いては懐かしい顔。耳の長い美人さんで、ぽんこ……優秀なエルフのディアナさん。
そして、錫杖のような金属の長杖を持った女性。歳が智沙さんと変わらないぐらいにしか見えないんだけど……『空の賢者』ミシャ様?
並ぶ大きい犬……じゃなくて狼だよね? 黒地に金毛の眉と胸がやたらかっこいいんだけど、クロスケさんってひょっとして……
「ああ、いたわ。マルリー、サーラ、久しぶりね」
「元気そうでなによりだ」
さらに後ろからディオラさんとケイさん登場。おおお、白銀の乙女が勢揃い! 写真撮ろう写真! チョコも入って写したい!
「ミシャ、とうとうこっちに来たのね」
「正直、来ないでいいならそれで良かったんですけどね……」
「さすがにそうも言っておられんようでな。ルナリアも話は聞いておるのだろう」
ルナリア様、フェリア様、そして、ミシャ様がなんかトップ会談っぽいものを気軽に始めてる。
えーっと、どうしたらいいんでしょうか? と思ってたら、
「ああ、大事な話の前に。えーっと、翔子さんは……あなたで合ってます?」
「は、はい! 白銀の館の雑賀翔子です。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。カスタマーサポートをさせていただいてたミシャ、山﨑美沙です。よろしくお願いします」
ペコペコしあう私とミシャ様。完全にジャパニーズビジネスマンですね……




