第六章③
その次の日。
「じゃあ、私はこれで、今までお世話になりました」
場所は生徒会室。南側の窓から朝日が部屋を明るく照らす。
机に座る生徒会長、美波瑠の表情は逆光で暗い。
麻美子は大きな段ボール一つ分の私物を抱え、頭を下げ、踵を返す。
「待ちなさい、」美波瑠が呼び止める。「ミソラは、何も言ってきてないわ、麻美子に風紀委員を辞めろなんて、そんな通達、ない」
「でも、いずれ、そうなるでしょ?」麻美子は憑き物が落ちたようなさわやかな表情。
「させない、私が」机に手を置き、美波瑠は立ち上がる。
「美波瑠さんも言っていたでしょ、ミソラに逆らったら、」
美波瑠は麻美子の言葉を鋭い口調で遮った。「そんなの絶対、させないんだからっ!」
生徒会室はしーんと静まりかえった。二秒間見つめ合った。麻美子は表情に表さなかったがとても嬉しかった。
「じゃあ、私はこれで」麻美子は再度踵を返した。
「待って」
今度は振り返らない。「どこか、当てがあるの?」
諸事情により麻美子の住まいは寮ではなくて生徒会室の隣の資料室だった。そこに体育で使うマットを敷いて寝床を作っていた。けれど、風紀委員を辞めるということはそこから出ていくことでもある。美波瑠は心配そうに麻美子の背中を見ている。
「はい、一応、ソファがある部屋に、了解はまだとっていませんけど」




