第二章④
「おっ邪魔しまーす、」宮古とウサコとアリスは鳩笛寮の中に入った。「うわぁ、懐かしいな、こんなに狭かったっけ?」
「宮古さんはこの学園出身なんですか?」階段を上がりながらウサコが聞く。
「ええ、高等部まではね、公務員になりたくて警察学校に行ったけど、」宮古は色々な体験を思い出しているようだ。どことなく幼げな表情を見せる。「でも、やっぱりこの学園が私にとっては故郷で一番居心地のいい場所だったんだわぁ、大学に行かなかったのもちょっぴり後悔した、外の社会に行きたい行きたいってずっと思ってたのに、お嬢様の生活に浸り過ぎちゃったのよね、私は上手く適用できなかった、別に外の人たちが冷たいとか怖いとか、そういうんじゃなくてね、むしろ私はよくしてもらったと思うし、公務員の上司は私を評価して認めてくれてもいたけれど、でも、やっぱり、無理だったんだな、外の世界とのズレが修正出来なくて、きっと大学に行って緩やかに外の世界に出れば違ったんだろうけど、無理だったんだなぁ、……そういう可能性もあるんじゃない?」
「えっ、どういうことですか?」ウサコは質問の意図が分からなくて聞き返す。
「だから、転校生の赤城ちゃんも故郷が懐かしくなったのよ」
三人はウサコと真奈の部屋に着いた。「どうぞ、中に」
「お邪魔します」宮古は頭を下げて入っていく。その後を、カメラを構えたアリスが続く。
「可愛い部屋ね」宮古はピンク色のカーテンを開け、窓を開いた。顔を出す。四階だから地上まで結構な高さがある。飛び降りたら複雑骨折する高さだ。
「ここで寝ていたんです、」ウサコは二段ベッドの前に立って言う。「朝にはもういませんでした」
「宇佐美ちゃんは上?」
「え?」
「宇佐美ちゃんは上で寝てたの?」
「あ、えっと、」ウサコはなんだか恥ずかしくて少し躊躇ったけれど嘘を言っても仕方ない。「下で一緒に寝ていました」
「なんで?」
「きっと、……疲れていたからでしょうか?」
「仲が良かったんだ、」宮古はベッドを調べている。調べているといってもシーツを捲ったり荷物をどかしたりしたくらいだけれど。「机は右が宇佐美ちゃんの?」
「はい」真奈の机の上は何も置かれていない。一昨日ウサコが掃除してそのままだった。
宮古はクローゼットも調べ始めた。アリスは窓から外の風景を撮っている。少し退屈そうだ。ウサコも部屋を調べても何も出てこないだろうと思っていた。
「宇佐美ちゃん、」宮古はクローゼットの中を見ながらウサコに言う。「赤城ちゃんはセーラー服なのよね?」
「はい、そうですけど、」
「クローゼットの中にないのだけれど、それは赤城ちゃんがセーラー服を着てどこかに消えたと考えていいかしら」
「はい、ええ、きっと、そうだと思います」
「昨日は裸で寝たの?」
「えっ?」ウサコは裸と聞かれドキリとした。もちろんそんなことはしていないけれど。「いや、私も真奈さんもパジャマでした」
宮古はウサコを手招きする。「そのパジャマはこの中にある?」
ウサコは言われるがままにクローゼットの中を見た。首を振る。「いいえ、ありません」
「二段ベッドの上の荷物は、全部宇佐美ちゃんのものよね?」
言われて確認する。「……はい、全部、私のです、でもどうして分かったんですか?」
「カバンのデザインに共通項が多い、分かりやすく言えばピンク」
「あっ」ウサコは今更のように気付いた。
「気付いた?」
「真奈さんの荷物が、」ウサコは机の引き出しも開けて調べてみる。昨日まであったはずの教科書の小包もない。「どこにもありません」
「立つ鳥跡を濁さず」アリスが言う。
「荷物は一人で運べる量だった?」宮古が聞く。
ウサコは少し考える。「運べないことはないと思います、でも、重そうでした」
「本当に故郷に帰ったのかしら?」宮古は顎に手を当て考える。「ま、ここでこうしてても仕方ないわね、戻りましょう」




