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072 青空と海と大地

 


 一年後。

 青空(そら)の誕生日であり、一周忌にあたる1月19日。

 有料老人ホームがオープンした。


 施設長は浩正(ひろまさ)、大地は管理者。

 海は喫茶「とまりぎ」の責任者として、従事することになった。





 この日は運動場を開放し、オープンを祝うたくさんの客が訪れていた。


「おめでとう、浩正(ひろまさ)くん」


 車椅子の下川が微笑む。


「ありがとうございます。何とか無事、オープンすることが出来ました」


青空(そら)ちゃんもきっと、天国で喜んでるわ」


「そうですね。でもね、下川さん。天国は勿論ですが、ここにも青空(そら)さんはいますからね」


 そう言って入口に掲げられた看板を指差す。


「そうね、そうだったわね」




 有料老人ホーム青空(そら)

 それがこの施設の名前だった。




浩正(ひろまさ)さん、利用者さん一名、到着されました」


 そう言って大地が門まで走り、車を誘導する。


「すいません大地くん、お願いします」


「任せてください」


 大地が笑顔で答え、車から降りてきた利用者に手を差し出す。


「ありがとう。随分賑やかね」


「ようこそ青空(そら)へ。歓迎します」


 海は運動場を走り回り、スタッフたちと接客に当たっていた。


「海ちゃん、本当におめでとう」


「ありがとうございます。山田さんも、今日はゆっくりしていってくださいね」


「海ちゃん、本当にしっかりしてきたわね。これなら新人さんたちも安心ね」


「あはははっ、私、最初の頃はおっかなびっくりでしたからね」


「でもここを任されてからの海ちゃん、本当に見違えちゃって。格好いいわよ」


「あはははははっ、そんなに褒めても何も出ませんよー。あ、でも紅白饅頭はありますから。後で召し上がってくださいね」


 そう言って後輩スタッフに指示を出す海を見て、大地も浩正(ひろまさ)も微笑むのだった。





「疲れたー」


 とまりぎが閉店し、海が椅子で大きく伸びをした。


「海、お疲れ」


「ありがと。大地もお疲れ」


 大地からコーヒーを受け取り、笑顔を向ける。


「すごい一日だったね」


「海のおかげで助かったよ。成長したな」


「大地だって、段取りよく動けてたよ」


「それに新人スタッフの面倒だって」


「まあこれでも私、ホール長ですから」


「違いない、ははっ」


「ふふっ」


 顔を見合わせ笑う。そんな二人に微笑みながら、浩正(ひろまさ)が声をかけてきた。


「お疲れ様でした、海さん」


「ありがとうございます。浩正(ひろまさ)さんこそお疲れ様です」


「いえいえ、僕の仕事はまだ終わってませんので」


「あ、そうか……とまりぎは時間になれば閉店だけど、老人ホームにはそういうのがないんですね」


「ええ。ここは365日、24時間フル稼働ですから」


「あまり無理しないでくださいね」


「まあでも、今のところ利用者さんは5名ですから。大変なことにはならないと思いますよ」


浩正(ひろまさ)さん、今日は夜勤もされるんですよね」


「ええ。ですがもう一人スタッフがいますし、休憩も取れると思いますよ」


「利用者さん、次はいつ入ってこられるんですか?」


「明日が1名、あさってが4名ですね。一か月ほどで満床になる予定です」


「そうなったら大変ですね。大地は大丈夫?」


「これぐらい何てことないよ。最初の内は手探りだけど、やっていく内に要領もつかめていくはずだ」


「頼りにしてるよ」


「海もな。とまりぎのスタッフが慣れてきたら、青空(そら)の方も手伝うんだろ?」


「うん。だって私も、大地と一緒に働きたいし」


 海がそう言うと、大地は微笑み頭を撫でた。


「それに青空(そら)さんの名を冠した職場なんだから。そこで働けばきっと、青空(そら)さんと一緒にいるように感じると思うんだ」


「そうだな。俺も今日一日、ずっと青空姉(そらねえ)がいるような気がしてたよ」


「でしょ? だからね、一日も早く青空(そら)で働けるよう、私も頑張るよ」


「じゃあお二人共、明日も早いことですし、そろそろ上がってくださいね」


「分かりました。浩正(ひろまさ)さん、後のことお願いします」


「ええ、お任せください」


浩正(ひろまさ)さん、お休みなさい」


「おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね」





「……」


 星空の下、大地と海が肩を並べて歩いている。

 手を握り、今日一日あったことを話し、笑い合った。


「ねえ大地」


「どうした? 寒いか」


「ううん、大丈夫。大地があったかいからね」


「俺は体温高いのが取り柄だからな、いくらでも分けてやるよ」


「ふふっ、何よそれ。ああでも私、この体温に救われたんだった」


「なにしろ一年前、温もり目当てで男を漁ってたんだからな」


「漁ってたって言うなー」


「ははっ、悪い」


「ふふっ」


 足を止め、海が空を見上げる。


「……海?」


青空(そら)さん、見てくれてるかな」


「ああ。きっと俺たちのこと、見守ってくれてるよ」


「どれが青空(そら)さんの星だろう」


「どうだろう。俺、星座とか詳しくないぞ」


「じゃあ今決めちゃおうよ。青空(そら)さんの星」


「今決めても、季節が変わったら見えなくなるじゃないか」


「なら、その時また決めたらいいじゃない。ひとつじゃなくてもいい訳だし」


「相変わらず適当だな……でもまあいいか、それが海だもんな」


「そうだよ。私が几帳面だったら大地、息苦しいよ?」


「まあ確かに……海がそうだから俺、のびのび出来てるからな」


「そういうこと。じゃあ大地、どの星にする?」


「そうだな……あれなんてどうだ?」


 そう言って、西の空にひと際輝く星を指差した。


「宵の明星。金星だね」


「そうなのか? 金星って見えるのか」


「ははっ、大地……知らずに言ったんだ」


「すまん。星はほんと、詳しくなくて」


「でもいいんじゃないかな。金星は時期によって一番星になる訳だし、他の星より明るく見えるし。うん、これにしよう」


「……ほんとお前、行き当たりばったりだよな」


「そんな私のこと、嫌い?」


「いや、大好きだ」


「でしょ? ふふっ」


 そう言って大地の腕にしがみつき、一緒に空を見上げた。


青空(そら)さん。青空(そら)さんの夢が今日、ついに叶いましたよ」


「これからが大変だけどな。でも本当、大きな一歩だ」


「これからも青空(そら)さん、私たちを見守ってくださいね」


 海の頭を撫で、大地が微笑む。


青空姉(そらねえ)。今俺、最高に幸せだ。この幸せを守る為、これからも頑張るからな」


「大地のこと、大切に育ててくれてありがとうございました。大地が今以上に幸せになれるよう、私も頑張ります」


青空姉(そらねえ)、愛してるよ」


青空(そら)さん、大好きです」


「そして……海、愛してるよ」


「私も。大地、世界で一番愛してる」


 唇を重ね合い、微笑む。


「これからもっと、幸せになろうね」


「ああ。海、生まれてきてくれてありがとう」


「私を見つけてくれてありがとう」


「支えてくれてありがとう」


「生きること、諦めないでくれてありがとう」


「これからもずっと、一緒にいてくれな」


「私のこと、ずっと愛してください」


 もう一度唇を重ね、微笑んだ。


「晩御飯、何にする?」


「今日は俺に任せてくれ。海も疲れてるだろうし、帰ったら先に風呂に入ってくれ」


「えー、一緒に入ろうよー」


「俺も言ってすぐに思った。一緒に入ろう」


「うん!」





 腕を組み、身を寄せ合い。

 大地と海が微笑む。

 幸せを噛みしめて。


 共に生きる喜びに包まれながら。




最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

作品に対する感想・ご意見等いただければ嬉しいです。

今後とも、よろしくお願い致します。


栗須帳拝

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∀・)愛をもってこの拳を奮い感想を語ろう。 ∀・)いやぁ~とても熱い魂がこもった物語でした。 ∀・)生きる事と死ぬ事。その死生観をドラマを通じ伝える。それはもしかして、これまでもとばりさんがやって…
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