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069 自己問答

 


 俺が生きる意味。死ぬ意味。

 それはなんだ?




 海は言った。俺の根底にはいつも、絶望があると。

 その意味を読み解いた時、何かが変わると。

 面白いやつだ。

 そんな発想、思いつきもしなかった。




 これまでずっと、死を渇望しながら生きてきた。

 どうしてだ?

 毎日飯は食えるし、欲しいものを買う余裕だってある。

 自分の時間もあるし、仕事だってそれなりに楽しい。

 煩わしい人間関係も持ってないし、特にストレスを感じることもないはずだ。

 それなのに。

 どうして俺は死を願ってたんだ?




 青空姉(そらねえ)が死んだ。

 俺にとって唯一とも言える、この世界の光。

 それが失われ、俺は絶望した。

 ある意味壊れた。だから死を実行しようとした。

 だが海は言った。

 本当にそれだけなのかと。




 確かに俺は今まで、青空姉(そらねえ)が生きていたにも関わらず、ずっと死を考えていた。望んでいた。

 いや。

 海に言わせれば呪いか。

 青空姉(そらねえ)が死んだことで、その思いが強くなったのは確かだ。

 しかし俺はそれ以前から、ずっと前から死にたいと思っていた。

 それは何故だ?




 親父が憎かった。

 俺が逆らえない弱い存在と分かった上で、自分のストレスをぶつけてきたあのクズが憎かった。

 母親が憎かった。

 いつも俺を罵倒し、心を殺してきた悪魔が憎かった。

 お前たちは親という立場にも関わらず、俺たちを育てるという最低限の仕事もせず、ただただ見下し、排除することを望んでいた。

 そんなお前たちを、俺はただの一度も親だと思ったことはない。

 お前たちのおかげで青空姉(そらねえ)は右目を失い、心に深い傷を負った。

 お前たちがいなければ、俺たちはもっと違う人生を歩めていたはずだ。

 幸せ、なんていうものを考えることも出来たはずだ。

 自分にとって一番身近な他人。そのお前たちのおかげで俺は、人を信じることを諦めた。

 無駄だと悟った。




 教師もクソばかりだった。

 俺がいくら嫌がらせを受けていようとも、どれだけ理不尽な目にあっていようとも。知っていながら気付かない振りをしていた教師。

 間違っても俺は、お前たちのことを「先生」なんて呼びたくなかった。

 俺たち姉弟(きょうだい)がどれだけ辛い日々を送ってきたか、お前らに分かるか?

 友人と呼べる存在もなく、恋なんて浮かれた妄想をすることも出来ず。

 自分の殻に閉じこもり、早くこの理不尽から逃れたい、そんなことしか考えられなかった青春時代を理解出来るか?

 勿論、クラスメイトもクソだ。

 脅迫まがいの恫喝を繰り返し、娯楽まがいに殴ってきた、人の皮をかぶった獣。

 もし自分がその立場だったら。そんな当たり前の思考も持ち合わせていないクズ共。

 だから俺は諦めた。全てを諦め、全てに絶望した。

 この世界の全てを憎んだ。




 海。

 いくら考えても俺には、これぐらいの分析しか出来ない。

 分析と言うか、回顧か。

 死にたいって思うことが、そんなに悪いことには思えない。

 こんなやつらが大手を振って生きている世界に、何の未練もない。

 そう思うことの何が悪い。




 自ら死を選ぶということは、この世界から逃げるということだ。そんなことを言った馬鹿がいた。

 おめでたいやつだ。さぞかしお前はなんの苦労もなく、理不尽な目にあったこともないのだろう。

 自分だけではどうにも出来ない、そんな状況に陥ったこともないのだろう。

 そんなやつが偉そうに語ってくるな。

 お前のしていることは、ある意味あいつらと同じなんだ。

 人の痛みの分からないやつが、偉そうに語ってくるんじゃねえよ。

 絶望を知らないやつが、上から目線で希望を語るな。

 人生から逃げている? それの何が悪い。

 いつ、誰が。逃げるのが悪いと決めた。

 俺のような人間に残された、たったひとつの戦い方。それが逃げることなんだ。

 お前たちは俺が逃げたこの世界で、せいぜい人生を謳歌すればいい。

 羨ましくもなんともない。

 好きにしろ。




 なあ海。

 やっぱり俺、どれだけ考えてもこの先に進めない。

 袋小路だ。

 お前言ったよな。絶望の根源を覗いてみろと。

 覗いた結果がこれだ。

 やっぱり俺の人生は詰んでいる。

 生きる意味なんてどこにもない。

 だって俺は、誰も信じられないのだから。






 ……待てよ。

 ガキの頃はともかく。

 今の俺は人と深く関わらないおかげで、大してストレスも感じてない。

 それなのにどうして俺は、死のうとしてるんだ?

 他人を諦め、人間関係に絶望し、誰も信じない。

 ならそれでいいじゃないか。

 これまでのようにその生き方を貫き、日々を消化すればいいじゃないか。

 それなのにどうして俺は、死という究極の選択を考えたんだ?

 人を信じれば裏切られる。だから信じることを放棄した。

 それでいいはずなのに。

 それを絶望として背負い、潰れそうになって。

 おかしいだろ。




 まさか俺は。

 俺は。




 俺は望んでいたのか?

 海が言った様に。

 人を信じたいと。深く関わりたいと。

 それが叶わない現実、それに絶望していたのか?

 俺の中にある絶望。それは他人に対してじゃなかったのか?

 人を信じたい。しかしそれが出来ない自分。

 俺自身に対する絶望だったのか?

 嘘……だろ。

 そういうことなのか?

 本当の俺は、人と触れ合うことを望んでいたのか?




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