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王太子妃付き侍女の憂鬱。  作者: なな風
とある一日。
7/17

お茶の時間でお話です。

神話って考えるの楽しいですよね!

 アフタヌーンティーのお時間です。この国ではお茶をかなり飲むんですよね。


「お茶の用意が出来ました。」

 お茶請けはナカゴパイです。私の手作り。朝作ってあったんですよねー。ちなみにナカゴはナシのように瑞々しくミカンのように酸味があり見た目と味はリンゴに似てるとかいう訳の分からない果物です。皮と芯は要除去。凄まじく硬くてマズい、そして皮には毒アリです。……お腹壊します。


 エリューシャ様にお茶を淹れ、自分は少し離れ控える。

「あら、ナカゴじゃない。また珍しいものを。」

「グラスゴルの商人が運んできたものです。なんでも、ヨムニールでは栽培が上手くいっているそうで。」


 センティリアでは気候のせいか栽培もあまり上手く行かず、なかなかお目にかからないんですよね。


「神話だとよく出てくるけど。たしか皮ごと齧るんだっけ?」

「はい。精霊王とその分体は生で皮ごと齧るんです。」

「精霊王の話でよく出てくるのよね。でもなんでかしら。」


「そうですね。精霊王は美しく清廉な姿、冷徹な正義と気まぐれな邪悪、深淵の闇にして閃光を導く者、と言われております。また人間に溶け込むことが上手いです。ナカゴは人間に混ざり込んだ精霊王を見つける為に、精霊神が精霊王の大好物に似せて作り出したものとされております。地上の生物では皮を取らないと食べられないですが、精霊王は気にせず食べてしまう訳です。」

「それでバレて怒られるわけね。」


「はい。逆に精霊神が怒られる場面もかなりありますが。」

「そうだったかしら。うーん、半分ぐらいうろ覚えだわ……。」

「でしたら噛み砕いて説明を。」

「よろしく。」


 ……神話。精霊王と精霊神にまつわるお話が主軸です。


 色々ややこしいんですけど、神は沢山いて、主神の下に色々な事を司っている。その中でも精霊神がかなり力を持っていて、リーダーとなって世界を動かしていたわけです。


 その状態で平和だったのですが、ある日突然別の世界の精霊王が墜ちてきたのです。その精霊王は精霊神と同じぐらいの力をもっていて、助けた精霊神の服装と地上の光景に対して驚き、この世界は遅れてる!と言うわけです。


 びっくりした精霊神は精霊王の話を聞いて、なら世界を良くするの手伝ってくれと言い、精霊王は助けられた恩義もあり承諾。そこから世界を改革していくのですが……。


 かなり気が合ったのでしょうね、双方共に悪ノリが凄くて……。うまく進歩した事もかなりあるのですが、引っ掻き回して大変な事体になることもかなりあるわけです。


 精霊王が地上に出て、世界滅亡させかけて精霊神に叱られたり。逆に精霊神のミスで世界が滅亡しかけたのを精霊王が地上に降り、地上の生物を使い世界を救って精霊神を叱ったり。二人して主神に叱られたりなど。


 色々な事件を起こしながら改革を進めるうちに、いつしか精霊神と精霊王の間に友情を超えた感情が芽生え……。どうしました、エリューシャ様。


「……精霊王と精霊神って同性同士よね?」


 ……ああ、言い忘れておりました、精霊神は三つの顔を持ち、精霊王は四つの顔を持つと言われ、基本的に精霊神は男、精霊王は女の姿をしております。……エリューシャ様、変な想像はお辞めください。


「してないわよ!」


 ならよろしいのですが。……神話の後半はほぼ恋愛小説のようなものです。が、かなり大事な事も書かれておりまして。


 世界の改革をかなり進めた精霊王は元の世界を忘れないために小さい自分の世界をつくるのです。その入り口は精霊神の近くと、もう一つ地上につくられています。そして、その地上の入り口を護るために魔獣という赤い瞳の獣を作り出すのです。


「え……。」


 それは最初小さなものだったのですが、精霊王が目を離した隙に独自の進化を遂げ、言う事を聞かなくなり地上の生物を襲い、襲った相手の形をとる様になります。精霊王は言う事を聞かなくなった魔獣を殲滅した訳ですが、精霊王は責任を感じ閉じこもってしまい、精霊神はそれをなんとか出そうと……この付近は恋愛小説ですね。


 その後も何度か世界を滅亡させかけながらもなんやかんやあって子を育み、支え合いながら世界を見守りつつ今も変えている、という言葉で締めくくっております。


「神話にも魔獣が出てくるのね、しかも色々な形をした赤い目の獣……。」

「今悩まされている魔獣にそっくりですね。」

「関係ありそうね……。」


 魔獣に関して、神話にはもう一つ。魔獣がその後再度現れた時、精霊王の分体が魔獣を従え自分に近い姿をとらせたとあります。その個体は言葉と精神を理解し、全ての魔獣を配下としたのです。精霊神はそれを見て何らかの用途に使う為に細工を施し、その個体以外を封印したとあります。

 これ、なにか大事な事のような気がしますが。


「……ありがとう。そうね、神話について調べてる人を当たってみるのもありね。」

「最も、個人的な意見でしかありませんが。」


 ……気付けばこのような話に。アフタヌーンティーとしてはしくじりましたね。


「いや、貴女の話は貴重な事が聴けるから助かってるわ。」

「……有り難き。」

「そうね……。貴女も座りなさい、他にも色々聞きたい事があるわ。」

「それは同感だ!」


 突然の闖入者。即座にエリューシャ様を庇える位置に移動し……。

「あら、アウル。おかえりなさい。お仕事は?」

「先程終わらせたよ、エリー。」

 ……殿下でしたか。


「……殿下、お気持ちはわかりますが淑女の部屋です、せめてノックをして頂ければ……。」

「それはすまない。エリーに会えると思うとつい、な。」

 ……このエリューシャ様大好き様め!

「私も会いたかったわ、アウル……。」

 ……このバカップルめ……!


 キラキラ空間を直視しないよう注意しつつ殿下にもお茶とナカゴパイをお出しする。

「……ふむ、このパイ、美味いな。君が?」

「はい、私の作ったものにございます。」

「ふふ、レーネのつくるお菓子は美味しいのよね!」

「ああ、美味い。私の所にも欲しいな……。」


「……有り難きお言葉。」

「あげないわ、けどここに来ればいいじゃない?」

「それもそうだな!エリーと共に美味い茶と美味い菓子を食べる昼過ぎ……。最高だ!」

「私も最高よ!」

 この夫婦ほんとつかれる……。


「それで、だ。レーネ、君とも話してみたい。」

「……ああ、レーネ、ほら貴女も座りなさい。」

「……し、しかし」

「気にするな、ほら早く座って。」

「……失礼します。」

 いつもと違う状況に緊張が。


「とりあえずお茶飲んで、それからね。」

 ……いただきます。…………うむ、我ながらいい仕事している。パイもいい出来だ。

「……すごいな、こいつ。」

「でしょ?」

 なんでしょうか。

「いや美味しいな、ってね。」

「ありがとうございます。」

 そこから数分間、まったりした。……話、するんじゃないんですかね?

この夫婦ほんとつかれる……。(レーネ談)

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