お稽古その2。
今回はちょっと難しめのお話。
合間に昼食を挟み、午後のお稽古といきましょう。
次のお稽古は座学です。この国のことは覚えてますか、エリューシャ様。
「覚えてなかったらどーすんのよ。」
それもそうだ。
「では現在この国を取り巻く状況についてご説明を。」
「えーと、まず北の山脈を超えた先にある魔族領ハーヴェスタとの交流ね。新しい市場としてかなりの価値があるから友好を深めたいのが一つ、文化交流をすることで新しい風を呼び込むのが一つ、強靱な肉体を持つ魔族の力を取り入れたいのが一つね。」
「ええ。これについて物理的な難点はおわかりで?」
「まず山脈を超えることが非常に厳しい事ね。山脈を回避するには海を渡るか、海と山脈の隙間に街道を新たに敷設するのが必要だけど、北の海は荒いし冬は凍る。街道も岩場を均すのは大変だし冬は厳冬。全体的に雪と寒さ、ルートの険しさがかなり厳しいわね。」
越冬装備を持ち訓練が必要、国の者達では厳しい土地、それが魔族領ハーヴェスタですね。なんでも、この国から首都までの道程で1年中氷が溶けない土地もあるとか。国境にある山脈は大陸を横断し魔族領とその他を分ける壁になっています。……大陸中央付近に山脈を貫くような裂け目があるため、その付近では交流がされているようですが。
「上出来です。では他の難点を。」
「既存の文化を大事にしたい者達が反対、主に古くからある家の貴族連中ね。逆に新興の連中は賛成。元が商人の家が多いからかしらね。中立派は日和見が半分、どちらも必要と思ってるのが半分かしら。」
よくある勢力図ですね。
「他には。」
「魔族の悪いイメージがなかなか取れないのがあるわね。魔族と魔獣を同じものだと考えている人はなかなか多いわよ。」
王都では払拭されつつありますが、郊外となると、ですね。
「よろしいでしょう。」
「これ、初期投資はかなりかかるけど利益はバカにならないパターンよね。」
「ええ、文化的、政治的に見ても利益は大きい可能性がありますね。……損失も大きい可能性がありますが。」
魔族の文化が受け入れがたい物であれば。こちらの文化が受け入れられなければ。魔族自体を民が受け入れなければ。……考えられる可能性は沢山ですね。
「もっといい面も考えなさいよ。」
「最悪の想定はしておくものですよ、エリューシャ様。」
国の頂点に立つお方であれば。
「こういう事になると突然臆病になるわよね、レーネったら。」
「臆病にならざるを得ないのですよ。」
護る立場であれば。
「まあ、いいわ。」
「……では魔族関係以外での事を。」
「……山脈の南、北東の国境にある大森林からの魔獣被害について。魔獣自体はどこにでもいるし、7年前よりかは確実に量は減ったけど、大森林にいるものは群を抜いて強いからやっぱり被害は絶えないわね。」
「第四部隊の増員申請は続いてますね。」
「こればっかりはどうにもならないわ、第五部隊と第三部隊を一部大森林に回してるけど。」
「やはり人員不足ですね。」
7年前にかなりやられましたから。
「毎年補充される人員とて訓練せねばなりませんし。」
「補充って……いや、いいわ。」
……失礼、実家のグノーメンは軍人畑ですので。私も少々……考えがそちらに流れていたようです。反省。
「失礼いたしました。」
ニュートラルな思考が欲しい。
「いいわ。……次、東のエイロンと南東のサージャルについて。」
どちらも国境を接する国で、荒野を挟んで存在する国。
「また小競り合いやってるらしいわ。ほんと、どうにかならないかしら。」
「昔から仲が悪いですからね……。」
元々一つの国だったのが分裂したおかげで
なり仲が悪い所である。
「何度かうちが仲裁してるってのに何年かするとまたやり始めるとかどうなってるのよ。」
「火種になるものが多いというのもあるかと。」
二つの国を跨ぐ荒野の地下には鉱脈がある。それと魔術的資源が眠っている、らしい。
「作物が育てにくい土地でもあるからそれも関係してるのよねぇ。」
「そして魔獣被害が双方共に大きい、と。」
これ近々戦争になるんじゃないかな、という予想。
「ま、こっちに火の粉がこなければほうっておいてもいい気もするけどね。」
「問題大ありですが。」
「そう?」
二つの国の先にある国が大問題です。
「あー……。グラスゴル……。」
「先代王妃の出身地にして、魔族領へ続く唯一まともな道がある国。そして魔獣被害が甚大、さらには7年前の王都消失。この国から多額の支援を行っておりますが。」
「グラスゴルの資源は貴重だからねぇ……。道が戦争で途切れるのは最悪かぁ。」
砂漠、大森林、山脈が接触する場所。大森林からも砂漠からも山脈からも魔獣が来るため被害も甚大、その分魔獣から取れる貴重な魔石が大量に。傭兵や狩人も多く人的資源も豊富。だったのだが。
「首都がでかい大穴になったのは痛いわねぇ……。大半の住民は逃がすことができたけど……。」
「今でこそ暫定王都が出来ておりますが。それでも機能は最盛期に比べると……。」
「首都を戻すために色々してるのよね。大穴の中につくるらしいわ。地脈もかなり良いらしいし。」
「その構想を実現させるためにも支援の継続が必要かと。」
「そうねぇ。戦争回避、もしくは何らかの介入が必要かもね。」
外交屋に期待です。
「いっそグラスゴルまでの海路を開拓してみるのもいいかもねぇ。」
「……アリですね。少々遠回りにはなりますが。……海の魔獣をなんとかしなければいけませんが。」
「輸送船団と護衛艦、今の魔獣が多い中で使うには……運用し続けるのはコストが厳しいか。」
「その分どこかで資金を補填しなければなりませんね。」
「……案としてはいいかもね。一回投げてみるか、詳細は専門家に任せるとして。……もうこの案、でてるかもしれないけど。」
どうなんでしょうねぇ。
「さて次。大陸の東端、大半島の南にあるヨムニールについて。」
5年前から交流し始めた国、ヨムニール。南は海、西は砂漠、北は山脈と大雪原に囲まれた大陸東端の大半島にある国。国土はセンティリアと同じぐらいの大国である。独自の文化を持ち、かなり昔からあるらしい。地形的な意味であまりこちらまで伝わっていない所でもある。魔獣征伐で共闘したことから交流が始まった。
「この国についてはまだわからないことのほうが多いわね。個人的にはあそこの戦士についてはかなり好感が持てたけど。」
「双方共に探り探りですが、友好関係を築こうとしているのが私にもわかります。」
「ま、今後に期待ね。」
さて、キリのいい所でそろそろ時間だ。
「……さて、そろそろお茶の時間かと思われます。ここいらでおわりにしましょうか。」
「わかったわ。あーつかれたー!」
アフタヌーンティーは大事です。
首都がクレーーターーーー!!!
なんか、ロマンがですね。まだ作中では構想段階で出来てないんですけどね。はい。
サブタイトルを修整。




