遺された手記、その2。
手記をパラパラと読むのです。
『侍女として雇われたため、この手記を記し始めようと思う。今までも書いてたが、何となく本を変えた。面白いギミックの物を見つけてしまってな。せっかくだし使おうかと。
まさか学院卒業後すぐにエリーの侍女になるとは。確かに学院でも途中からエリー付きみたいなものだったが。アルの悔しがった顔は面白かったな。
アークは騎士団の副団長、と。学院入学時すでに所属していたのだったか。卒業半年前には副団長になるかならないか、と言っていたな。予想通りというか、なんというか。
マリアは今度結婚する。相手は一つ年上のシャンサー家令息。今時珍しい恋愛結婚。すごかったしな、マリアのアプローチは。
書き忘れていたが、エリーは婚約状態の王太子妃候補。相手はアル。今日もお熱いお二人でしたよ、ええ。はやく結婚してしまえ。
さて、今日はここで。』
「エリューシャ様はこの時からお熱いんですね……。」
「ある意味恋愛結婚みたいなものだったからな。」
「今でも熱々ですよ、よく続くもので。」
『書き始めてまさか一日で忘れるとは、私って。
とりあえずここ数日の状況。
エリー、王妃様と面会。王妃様は病弱だからな、なかなか会えないのも無理はない。
アル、今日もアークと稽古。二日に一回は時間見つけてやりあってるな。
私、始祖様と面会。ジジイ、いきなり呼び出しやがって。つーか何百年生きてんだ、さすがというか。……やはりというか、アレのことは感じていたらしい。こってり絞られ……てはないが、これからどうするかを考えろ、だそうだ。クソが、さすがは神に片足突っ込んでるって噂だけはある。つーか噂だけじゃねえんだが。私と同じだったとは。エルフのくせになまいきな。冗談だ。ジジイが先だ。ケッ。どうせ数年程度の若輩者だ、しかし時間はありすぎるほどにある。気楽にいくか。
今日はここまで。』
「一日坊主……。」
「そんな目で見ないでくれ。」
「……始祖様とは。」
「ああ、ジジイだ。実家を興したから始祖様。風の魔族……本人曰くエルフ族ベースの混ざりものらしい。」
「ああ、サーヴァント老……。今も陛下の相談役ですね。」
「……そうかい。」
『よし、この手記は不定期で書くことにしよう。うん。
四人でお忍び、街で飲んだ。アークを酔わせてからかってたんだが……まさかアークが侍女フェチだったとは。どうりで学院のときとは見る目がおかしいと思った……。次の日指摘したらショックうけた顔して、頭抱えだした。自分でもそういう意識はなかったらしい。……とりあえず、私以外でよろしく、と言ったら真顔でそれはもちろん、と言いやがった。ボコボコにしてやった。スッキリ。ほかの騎士に怯えられるのは心外だったが。
マリアがまた新しい菓子をつくるらしい。その手伝いを頼まれた。何でも、スライムみたいな感じのプルプルしたものらしい。……スライムってドロっとした危険な獣なんだが。……獣?スライムを獣と呼ぶのって変じゃね?たしかに魔獣ではないが。いや魔獣にもいるな。斬れないし叩けないから魔術で処理するしかないから面倒だ。話がずれた。エリーに許可を得て、明日行ってくる。
今日はここまで。』
「侍女フェチのアーク、もしかしなくてもアクロイ団長では。」
「正解。」
「……そうですか。」
「どうした?」
『結局、マリアの言うゼリーなるものは失敗した。だが、粗く削った氷にかけると美味いことが分かった。これは暑い季節に重宝するかもしれない。マリアにはぜひ買わせてくれと言っておいた。私的には苦いものがあるといい、と言ったらまかせろと。期待だ。
マリアに会う時にシャンサー家令息と会った。なるほど、これは次期宰相といわれても間違いないな。しかも愛妻家になるな、あれ。いい物件を見つけやがって、爆発しろ。
……結婚かあ。羨ましい半面、私は無理だな。というか、諦めた。年頃の娘としてはどうなのかと思うが。……よくジジイは結婚できたな。
考えたら嫌になる。』
「削り氷……かき氷ってこの時にできたんですか。」
「ああ。マリアの菓子のアイデアは驚くぞ。」
「一度ご教授願いたいですね。」
『マリアが結婚した。はえーよ。婚姻は結んであったらしい。ドレス、私がデザインしたんですよ。頼まれて。我ながらいい仕事した。……アルとエリーが今度は私たちも、だってさ。ケッ。
この問題はいつか気にしなくなるんだろうか。』
「結婚、嫌なのですか?」
「寿命がな、私は永いんだよ。」
「……そうですか。」
『はい、絶対マリアに触発されやがったんだろうね、あの二人。ええ、私がデザインしましたとも。なにせ次代の国父と国母ですからね、素晴らしいものに仕上げましたとも。あー疲れた。国民にはかなり評判よかったね、二人。
式の時、上空に竜らしきものを見た。……最近竜らしきものの報告が各地で上がっているらしい。竜は基本人間の領域に出てこないはず。
……嫌な予感がした。』
「嫌な予感ですか。」
「私の感は当たるんだよ。……ほんとにね。」
「それはそうと、時間は大丈夫かね?」
「……そろそろ起こす時間ですね。」
もう一服し、立ち上がる。
「いってこい、暇なときにまた読んでくれ。」
「ええ、また。」
手記を閉じると彼女の姿は光りの粒となって消えた。……すごい高度な魔術です。
さて、お仕事再開しますか。
侍女は貴族令嬢の相手探しも兼ねてます。天職の人もいるようですが。




