誰かの手記。
この部屋、昔から王太子妃付き侍女の部屋として使われていたんですよね。だからか、暇な時に掃除をしていると変な物を見つけてしまう事があるんですよ。
たとえば、ベッド下にある昔のお付き侍女だった人の落書き。化粧台の引き出しにあった何かのメモ。なぜかキッチン下の棚にあった昔使われていた櫛。書き机の引き出し奥の細工、その中にあった誰かの手記。
……誰かの手記、かなり巧妙に隠されてました。しかも鍵付き。もっとも、鍵は横に置いてありましたが。
まだ開けてないんですよね、これ。読むべきか、読まざるべきか……。
うーん。
……よし。
せっかくですし、暇ですし。これを書いた人には悪いですが暇つぶしに付き合ってもらいましょう。
鍵を差し込み回す、回りません。どういうことだ。
ガチャガチャと回そうとしても回らない。なぜだ。
鍵穴を覗いて見……ああ。
「フェイクですかこれ……。」
騙された。
外装を観察して開き口を探す。にしても装飾のない本ですね。縁と背表紙の角を金属で覆ってある以外は無地です。インクといっしょに細工棚に入ってなければ題名のないただの本にしか見えませんね。……いや、もしかしたらあのインクはフェイクでただの本なのかもしれない。開ければわかる。
背表紙は何の変哲もないですね。表紙と裏表紙も普通。フェイクだった鍵付き止め具は……開きそうにない。どうしろと。
「どこから開けるのこれ……。」
わからん。
……気分転換にとりあえずお茶でも飲むか。
食卓に本を置き、キッチンで茶を淹れる。クッキーも焼くか。
バターや砂糖、あと卵が普通に使えるってのはいいね。粉に、細かく粉状にした茶葉をたっぷり入れ混ぜ混ぜ。バターと砂糖、そして卵。白身は、あとで。粉と混ぜてさらに練り練り。
「ふんふふんふーん。」
そろそろいいかな、生地を寝かせましょう。魔石の低温保存庫……一部の人は冷蔵庫?とか言ってましたね。に入れて、と。ああ、そういえばオーブンにも火を入れないと。
オーブンに火を入れて、と。あったまるまで待ちましょう。ちなみにこのオーブンも魔石使ってます。ああ便利、文明の利器!
……さて、待つ間に卵白をボウルに入れて混ぜる。とにかく混ぜる。途中で砂糖入れてさらに混ぜる。途中でお茶を飲んで休憩。さらに混ぜる。……よし、このくらい。絞り器に詰める。
オーブンは……いい感じかな。
鉄板にバターを塗って、小さめで絞り出していく。たくさん並べたら、オーブンに投入。さあ、待ちましょう。
片づけをして、待ってる間にお茶で一服。パイプを取り出し、葉を詰め、火をつける。ゆっくり燻らせながらお茶を飲む。
「……至福ぅ。」
そのまましばらくぼうっと。
しばらくしてふと気付き、なにか時間つぶしを考える。これで本でもあれば完璧……ああ、忘れてた、謎の手記があるんだった。
放置したままの手記を取り、もう一度確認する。やはり開け口はない。
「どうなってるんだ、これ。」
ため息をつき、立てるように本を置いて、一服。しばらくぼうっと燻らせる。
思い出したようにオーブンを確認。ちょうどいい感じですかね。出しましょう。
出したものは冷ますためにそのまま置いて、オーブンの温度を上げる。寝かせてあった生地を切り、鉄板に並べる。温度が上がったのを確認して投入。あとは待つだけ。
焼けたのを一つとり、齧る。
「……いいかんじ。」
メレンゲクッキーできた。美味しい。一部を取り、食卓へ。
お茶を飲みながらクッキーを食べ、パイプを咥え、一服。ああ、至福。
しばらくぼうっと本を眺め。
「……ん?」
背表紙、ズレてる?
よくみると、金属部分から上にほんの少しだけスライド……してる。そのまま抜くと。蓋つきカバーみたいな感じですか。とても凝ったフェイクです。傾けると中から本が。
「これも鍵付き……。」
とりあえず鍵を試すと。カチリ、と音がして開きました。
「……開きましたか。」
読む前にもう一度オーブン確認。よし。取り出し、一枚とって齧る。
「おいしい。」
バタークッキー。簡単美味しい私の味方。これも一部とる。残りは冷ますために置いておく。食卓へ戻りましょう。
さて、手記です。どんなことが書かれているやら。
クッキー、美味しいですよね。




