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マグ=ソトゥーフ祭典 2

マグ=ソトゥーフ祭は、前夜祭での花火から始まる。

一日目にはパレードがあり、そのパレードでは国王の挨拶がある。その席にはシュヴァインも参列するから、まずそこでの護衛を第一騎士団の人たちが担当する。

その他に、軍の個人戦を観戦したり、町に下りたりと忙しい。特に町に行くときは会議室に集まったほぼ全員で警備に当たる。

そこでの動きや配置を確認したり、緊急の時の避難経路を吟味したりと忙しい。

まぁ最も、一番近くにいるのは隊長のロベルトとフィート、マリアさんの3人で、私は裏からのバックアップなんだけど。



「次、最終日の王宮での晩餐会についての資料を配る。昼からの茶会、夜の舞踏会とぶっ続けで参加することになるから、気ぃ抜くなよ」

「うわ、また多いね」

分厚い資料を配られて、思わずげんなりしてしまう。

会場図から避難経路、招待されているお偉いさんの名前などが事細かに書かれていた。




「それぞれの配置場所は書いてある。質問があったら挙手しろ。あ、11ページな」

進行役のロベルトがそう言った。ふむふむ、11ページね。私は……、『シュヴァインのパートナー』ね。なるほどなるほど。




「裁判官、意義あり」

「あ?なんだよ、嬢ちゃんには特別な配置用意したじゃねぇか」

「このパートナーってなんですか」

「シュヴァイン様のパートナーとして茶会と舞踏会に参加。常に隣に入れて、自由も聞くだろ?」

「問題はそこじゃない気がするんだけど!」

仮にも一国の皇太子のパートナーが、いっちゃ悪いけどEランクの使い魔でいい訳がない。周りも流石に抗議し始める。




「そうですよ、いくらなんでも……」

「無謀じゃないですか」

「流石になぁ……」

「つっても、シュヴァイン様のパートナーとなりゃ、未来の王妃だぞ?王位継承も迫っているのに、シュヴァイン様はまだ未来の王妃様を選り好みしちまって選んでねぇし、」

「……別に選り好みしているのではない」

「そんな中、適当にそこらの娘をパートナーに選ぶと貴族どもが黙ってない」

「じ、じゃあ今まではどうしてたの」

マグ=ソトゥーフ祭典は、建国を祝う祭りのはず。なら、毎年行っているはずだ。だったら、去年までは私の他にシュヴァインのパートナーがいたはず!




「去年まではシュヴァイン様の従姉妹、リリー様がパートナーだったのだが、リリー様は半年前に御結婚なされてな……。夫とパートナーを組むらしい」

「そんな……!」

「嬢ちゃんだったら、ただの使い魔だから政治関連は極力避けることができる。しかも、人間にしか見えないから、初めて会った奴は嬢ちゃんが使い魔だなんて分かんねぇだろう。

てことで、あんたにゃ、『遠い異国から来た皇女』ってことで、よろしく頼む」

「んなっ……!無理だよ!皇女って柄じゃないもん!」

「「「確かに」」」

「ぶん殴んぞ」

会議室にいた殆ど全員が一斉に頷いた。そこまで息を合わせなくてもいいじゃん!

でもその中で、ゼノファーやエルシェ以外にも頷かなかったマリアさんが、



「大丈夫よ、セリカさん。バックアップとして、ここにいる何人かは動けるように茶会や舞踏会の中に客人として入るし、あなたはただシュヴァイン様のお側で危険が及ばないか気を付けているだけでいいの」

と言った。いや、問題はだから、そこじゃなくて、私みたいな奴がパートナーじゃヤバイってことであって。



「セリカさんなら、絶対に大丈夫。もしかして、シュヴァイン様をお守りすることに自信がないのかしら」

「そんなの、大丈夫だけど、」

「じゃあ決まりね!そうすれば全て上手くいくわ!」

「ぐぬぬ……!」

満面の笑みで言われてしまえば、『できません』なんて言いにくい。マリアさん、なんて人だ。聖女みたいな顔して意外と腹黒い。




「皇女だから、ドレスを着て踊れるようにはしておけよ、嬢ちゃん」

「……はいはい」

こうして私は、ドレスを着てダンスの練習を行う羽目になってしまった。










ロベルトになんとも無茶苦茶な配置を決められてしまった私と、ゼノファーがまず向かった先は、以前服を作って貰ったお店、『キャラメリア』だった。

カランコロンという、軽やかな音色と共にドアが開く。その先にあるのは、パステルカラーで彩られた乙女チックな店内と、厳ついオッサン、ワイルさん。

なのだが、今日の店は大繁盛らしく、女の子たちが大勢店内を見て回っていた。




「……らっしゃい」

「久しぶりワイルさん。大繁盛じゃん」

「……マグ=ソトゥーフ祭が近いと、どこの仕立屋もこんな感じだよ」

人混みが嫌なのか、何処と無く不機嫌そうなゼノファーが呟いた。彼が不機嫌だなんて、珍しい。




「あ!芹香ちゃん!」

「久しぶり、蘭!」

こちらに気が付いた蘭が駆け寄ってきてくれた。忙しいのか、何処と無くやつれてるような……?




「芹香ちゃんもドレス作りにきたの!?嬉しい!次はどんなのを作ろっかなぁ!」

あ、これただの徹夜明けのテンションだ。

見た目に寄らず楽しそうな蘭を見ていると、仕立屋がどれ程忙しいのかがよく分かる。この仕事が好きだって言ってたけど、いつか過労で倒れるんじゃないだろうか。




「蘭、よく聞いて。今回は普通のドレスを作って。大きな声では言えないんだけど、結構大きなパーティーで着るから」

「えー?最近、リボンオンリーのドレスっての考えたんだけどどう?」

「それ絶対やっちゃいけないヤツだから止めて」

素っ裸に大事な所だけを隠しただけってなりそうで怖い。




「本当に大きなパーティーなの。その……、パートナーの人にも迷惑かけられないし、ね?」

「ふぅん……、パートナー、ねぇ?」

ふと、蘭の視線が私の後ろに向けられる。え、なに、どういう意味?

後ろを向いても、ゼノファーしかいないんですけど。




「ま、そういうことなら任せて。飛びっきりの可愛いの作ってあげる!もう一回寸法図るね。あ、ドレスコードとか分かる?」

「ど、どれすこーど?」

なんじゃそりゃ、と首を傾げる。なにそれ、ドレスの種類ってこと?

なんて答えればいいか分からずにいると、ゼノファーが助け船を出してくれた。




「確か、ホワイトタイだったはずだ。一応、イブニングドレスとアフタヌーンドレスを2、いや、3着ずつ頼める?」

「勿論!色はどんなのがいい?希望があれば見せるけど?」

「……清楚なイメージを受けるような、パステルカラーがいいかな。水色系統、あと赤色系統も見せてくれると嬉しい」

「はーい!ドレスラインについて何か希望は?私的には、芹香ちゃん身長小さいし童顔だから、プリンセスラインやAラインがいいかなぁとか思うんだけど」

「清楚感を出すならエンパイアラインでもいいと思う。あと、あんまり子供っぽいより、少し大人っぽいほうがいいんじゃないかな?」

「なーるほど!お兄さん、結構イケる口ですなぁ?」

おお、なんかよく分かんないけど、トントン拍子で進んでく。流石は貴族の三男。女性のドレスにも詳しいようだ。




「……って、勝手に決めちゃったけど、大丈夫?」

「ううん、むしろ助かる。ドレスなんか、全然分かんないから」

これなら、ドレスの方はなんとかなりそう。



「っあー!」

って思ってたのに、いきなり蘭が大声上げた。




「な、なに、事件発生?」

「芹香ちゃん、髪型は?メイクはどうするの?」

「え、必要?」

「必要だよ!」

その場でくるりと回った蘭は、大げさな動作を付け加えて私にメイクと髪型の大切さを演説し始めた。




「ただ美しいドレスを着るだけじゃ、完璧だなんて言えないよ!美しいドレスを着たのなら、美しい髪型とメイクもするべき!そうじゃなきゃ美しさは半減、いや殆ど無くなってしまう!美しいとは即ち完璧であるということ!全てにおける黄金比が組合わさることで……「わ、わかった、分かったから!」」

そんな演説を聞きにやって来たんじゃない。慌てて首を縦に振る。




「是非!私に考えさせて!メイクもやらせて!私、こっちに来るときメイク道具とかも一緒に持って来ちゃってるから、それ使おう!」

「え、いいの?勿体ないよ!」

だって、地球にある化粧品なんかここでは手に入らない。そんな大切な物、簡単に使っちゃったら、すぐ終わっちゃうのに。

だけど、私の気持ちとは裏腹に、蘭は嬉しそうに微笑んだ。



「だって、芹香ちゃんは私と同じ日本人だもん。仲間意識って、いうのかな?

ずっと一人だって思ってたけど、芹香ちゃんと出会えて、どれだけ嬉しかったか。だからこそ、役に立ちたいの。使わせて」

「…………」

蘭が、こっちの世界でどれだけ苦労したかは、私は知らない。

でも、いきなり住む世界が変わってしまう恐怖は、知っている。

『自分と同じ境遇の人』というのが、仲間がどれだけ心の支えになってくれるかということも。




「……しょうがないなぁ。じゃ、任せるよ?」

「……!うん、任せて!飛びっきり綺麗にしてみせるから!」

嬉しそうな蘭を見て、思わずこっちも嬉しくなった。



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