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マグ=ソトゥーフ祭典

仕事帰り、チンピラ二人に絡まれました。



「は、てめぇみてぇなチビと金髪が兵士?んなわけねぇって!」

「悪いこと言わないからさぁ、金貸してくんない?」

「……セリカ、暴力は駄目」

「…………」

とりあえず、ボコりました。








「だから、暴力はだめって言ってるでしょ?」

「だって、じゃあ他になんかやり方あった?」

「でも、もしセリカに怪我があったら……」

「普通そこじゃなくない?」

チンピラ二人を成敗した後、城に戻ってもゼノファーはそう言って説教を続けてくる。相変わらず論点が可笑しいけど。

そんなゼノファーの説教を聞き流しつつ歩いていたところ、ふと掲示板前に小さな人だかりが出来ていることに気がついた。




「なんだろ」

「え?あ、セリカ!」

さっさと人だかりに紛れ込み、掲示板を仰ぎ見る。そこには、朝は貼られていなかった張り紙が二つほど追加されていた。




『先日のソネリア集落集団殺人事件は、経験派による事件と判断された。龍を崇拝する犯罪者を確保した場合、ただちに第三騎士団副隊長に連絡をすること』

『マグ=ソトゥーフ祭典の勤務予定を立てるため、勤務希望がある者はただちに第三騎士団副隊長に提出すること』

「……」

この二つの張り紙を見て、私は首を傾げた。

経験派とは、マグ=ソトゥーフ祭典とは何ぞや。てか、ロッシェ働き者だな。ソネリアの事件と、祭典のことまでやってるだなんて。




「ねー、ゼノファー。経験派ってなに?」

「え?……んと、どこから説明すればいいかな」

隣にいたゼノファーに質問すると、ゼノファーは首を傾げてそう言った。




「召喚される使い魔の強さは、主人の強さに反映するっていうのは知っているよね。その主人の強さはどうして変わるのか、長年議論されているんだ」

「ふんふん」

「その議論は経験派と精神派の二つに別れていて、経験派っていうのは、主人が過去に経験した出来事の種類、量によって強さが変わるというもの。もう一つ精神派というのがあって、こちらは経験に基づいた個人の精神の強さが反映しているというものなんだ」

つまり、経験派はただ経験を重ねるだけで強くなって、精神派は経験だけじゃなく、それに伴う精神の方が重要、っていうことであっているのかな。




「だから、経験派の人は犯罪に走ることが多い。ただ経験するだけだから、盗みや殺人をすれば強い使い魔を召喚できると思っているんだ」

「へぇ、で、結局どっちなの?」

「経験派も精神派も、元は『体験をすること』だから……。しっかりとした確証は得られていないよ」

「ふぅん……」

その経験を得るために、ソネリアで大量殺人して、シュヴァインに刃を向けたのか。まぁ、それで捕まってしまったのだから自業自得だけど。




「ね、じゃあマグ=ソトゥーフってのは?」

「マグ=ソトゥーフ祭典は、この国の建国を祝う祭りだよ。この国の最初の王の名前がマグ=ソトゥーフだから、マグ=ソトゥーフ祭典。

3日間行われるこの祭は、犯罪も増えるし王族が国民の前に出ることが多い。だから、特別に警備を組み立てるんだ」

「祭り、かぁ……」

思わずワクワクしてしまう。どうせ、ゼノファーと道ばたの警備を行うんだろうけど、それでも祭りの熱気は味わえるだろう。何年振りかの楽しそうなイベントに、期待が膨らむ。




「催しは色々あるよ。特別に王宮の一部を開放したり、花火が上がったり。他国の人間も来るから、軍の力を示す為にパレードや軍が行う個人戦もある」

「へぇ~!個人戦だと、やっぱアレイスターが強いの?」

国で最強と言われているアレイスターが万年一位っぽいと思ってそう言ったのに、ゼノファーは首を横にふった。え、違うの?




「3年前から四大騎士兵は参加してはいけなくなったんだよ」

「なんで?」

「やっぱり、その四人が毎回優勝候補だし……。それに、フィートの魔術が反則的に強いから、禁止になったんだ」

「へぇ~、私も出れる?」

「セリカは使い魔だから無理、かな」

「チッ」

なら参加出来るのはパレードかなぁと考えていたら、トントンと肩を叩かれた。振り返ってみれば、タバコを加えたロッシェが突っ立っている。

忙しいのか、いつもより気だるげで色気が三割増ししだ。




「どしたの、ロッシェ」

「お前、シュヴァイン様の護衛な」

それだけ言って、さっさとロッシェは廊下を歩いていってしまう。




「「……え?」」

ゼノファーと私の呟きが重なった。









「ちょ、セリカストップ……「ちょっとロッシェ!さっきのなに!!」」

ロッシェの部屋の扉を開けつつ、私はフライング気味に質問を投げ掛けた。それと共に部屋の中の惨状が露になる。元々広い部屋なのだが、今では床が見えなくなるほどに資料が散乱し、またあちこちで紙の山が出来上がっている酷い有り様だった。しかも、その中で何人かの人が慌ただしく動き回っているのだから、本当に酷い有り様だ。

その中で一緒になって働いていたロッシェは、私たちに気がつくなりすぐに話しかけてきた。



「あ?なんだセリカかよ」

「なんだじゃない!さっきの、なにあれ!」

「何って、お前、祭りの時はシュヴァイン様の護衛やれって話」

「なんで!?」

だって、シュヴァインは王族だから第一騎士団が担当するはずだ。なのになんで第三騎士団の私が担当するんだ?



「なんでってお前、祭だぞ?王宮にも大勢の人が来るし、シュヴァイン様を含め王族も人の前に出る機会が多くて人手が足りねぇ。だから、特別に護衛を組むんだよ」

「だったら、第一騎士団だけで、」

「大型の使い魔だと、王宮内なんかの狭い場所での護衛が出来ない。しかも、ある程度力がある奴じゃなきゃだめだろ?」

「だから、セリカが選抜されたのですか?」

「そーそー。人数足りねぇから、第三の兵士貸せって言われた。ゼノファーが貴族でもあるし。てことで、がんばれ」

ぽん、と肩を叩かれる。いやいや、てことでじゃないから。



「じゃ、俺忙しいからさっさと出てけ。後々詳しいことは教える」

「いやいやいやいや……」

だって、王族って言ったら、ねぇ?

しかもシュヴァイン様の近くとなると、ね?

ほら、あの子が……。第二王子の……。





「セリカお姉ちゃん!」

「こうなると思ったよ」

後日、顔合わせということで会議室に赴いたら、扉を開けてすぐに見覚えのある子供が抱きついてきた。突進してくるランカーを受け止めつつ、思わずげんなりしてしまう。



「セリカお姉ちゃん、会いたかったです!」

「あーはいはい」

ぐりぐりしてくるランカーから取り合えず離れる。近くにいたゼノファーや他の兵士たちは唖然としたままだし、ランカーのお供のジョナサンや兄のシュヴァインには難しい顔をしてる。




「せ、セリカ、え、え?」

「色々あって、なつかれた」

動揺するゼノファーに適当に説明をして席につく。見知った顔は、フィートとノイン、そしてそれぞれの使い魔。あと、前に少しだけ会ったことがある第一騎士団隊長。それくらいしかいない。



「嬢ちゃんたち、久しぶりだな」

「ども」

「お久しぶりです、ロベルト隊長」

「殆どが第一騎士団の者だが、仲良くやってくれ。あ、もう一人違う奴がいるがな」

ロベルトが顎でしゃくった先にいたのは、臼桃色の長髪が綺麗なお姉さんだった。柔らかく微笑む姿は何処か儚げで、まるで深窓の令嬢のよう。




「可愛らしい使い魔さんの噂は聞いておりますよ。私は第二騎士団隊長、マリア・ルイーザです」

「……橘芹香です」

その噂とやらは一体どんなものなのか、聞きたいような聞きたくないような。

というか、第二騎士団の隊長といえば、四大騎士兵の一人だったはず。会議室の中には、その四大騎士兵が二人に、第一騎士団隊長もいる。他の王族の護衛もあるのに、ちょっとパワーバランス崩れないのかな。

私が色々考え事をして渋い顔をしていると、シュヴァインがパン、と手を鳴らした。




「顔合わせはこれくらいにして、さっさと始めるぞ。席につけ」




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