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魔戦 9



 なんだ、あの使い魔は、と、ノインは思い切り歯噛みした。



 悠々と空を飛ぶ、水色の水晶のように輝く龍。俺の使い魔、レオアが散々魔法を飛ばすも、アクロバティックな動きをされてなかなか捕らえる事が出来ない。

 イラついた俺は、詠唱が必要な特大の火の塊を作り上げた。

 轟々と燃え盛る炎を、一気に二人目掛けて飛ばす。龍化したセリカに当たっても死にはしないだろうし、直径5メートルはあるそれなら、少なくとも掠るくらいはするだろう。

 さぁ、落ちろ! とゼノファーの使い魔、セリカを見つめる。すると、あろう事か、セリカの龍化がいきなり解かれた。



「はぁ!?」

 人型となったセリカとゼノファーが、宙を舞う。慌てて火の塊を消そうとしたら、セリカの持つ剣が、一際強く光った。

 剣が、振り下ろされる。と同時に、白い光の斬撃が火の塊に飛び、ぶつかった。

 バァン! という音がしたと思ったら、俺の魔法が四散してしまっていた。すぐまた龍化したセリカはゼノファーを空中で拾い背に乗せ、また悠々と空を飛ぶ。




「あの使い魔、本当にEクラスですの!?」

 切羽詰まった声でレオアが叫ぶ。それでも追撃を繰り返すレオアの後ろで、俺は歯噛みするしかなかった。

 あれがEクラス? んなワケあるか、有り得ない。本当になんなんだ、あの使い魔は。

 Eクラスならば、人語は喋らない家畜と似たり寄ったりの存在だ。なのに、何故Bクラスのレオアと俺を翻弄するだけの力がある。それが、何故か分からない。




「……とにかく、例えあの使い魔がEクラスレベルじゃなかったとしても、ゼノファーは違う」

 そうだ、試合中、ずっとあの使い魔は末の弟ゼノファーを庇いながら攻撃をしてきた。俺がゼノファーに切りかかった時も、わざわざその間に入ってきたくらいだ。

 ゼノファーには、そこまで力が無い。あいつがいきなり強くなって強い使い魔が呼び出せるようになった訳ではなく、たまたま強い使い魔が召喚されただけなのだ、きっと。




「あいつらが降りてきたら、ゼノファーはこの際無視だ。あの使い魔に攻撃を集中させるぞ」

「分かりましたわ」

 そうこうしているうちにも、彼らは闘技場の上空を旋回する。まるで、獰猛な猛禽類が獲物を狙っているかのようで少し不気味だ。

 まだかまだかと、じれったい気持ちでそれを見つめてる。

 そのうちに、急にカクンと彼らは角度を変え、こちらに急接近してきた。真っ正面から、闘技場の客席スレスレでこちらに真っ直ぐ降下しながら飛んでくる。

 鳥が獲物を取るのと同じように感じた。一気に近づく龍化したセリカに一発お見舞いする為、レオアは魔法を準備し、俺は剣を構える。

 そして、あと一秒もしないうちにぶつかるという時、



『そりゃ!』

 そんな軽いかけ声と共に……、猫だましのように、いきなり目の前が真っ白になった。



「な、なんですの!?」

 白い煙が空中に漂う。これは、使い魔のセリカが龍化を解く時に出る煙? その事に気づいて、ハッとした。



「レオア、構えろ!」

 いきなりの事に慌てるレオアに声をかける。も、その俺の声と重なるタイミングで、白い煙の中から人が飛び出してきた。

 煙を引き裂くようにして飛び出してきたそれは、寸分の違いも無く空中に浮遊するレオアの首筋に剣を据える。

 ピタッと止まった二人。白い煙は相変わらず消えない。




「チェックメイト」

 と、レオアの首筋に剣を据えたセリカが呟いた。




「甘ぇよ! 俺がいる!!」

 セリカが反応する前に、一歩進み出す。今度は、俺がセリカの華奢な首筋に剣を据える番だった。

 白い素肌に鈍色の剣を当てながら、俺は鋭利な笑みを見せる。




「チェックメイトだ、セリカ。剣を引け」

 その忠告の前に、セリカは悔しがる様子も、焦る様子も見せないで……、ただ、笑った。




「なに、笑って--」

 言い終わる前に、俺のすぐ横から何かが飛び出してきた。

 セリカと同じように、白い煙を引き裂き、低い姿勢で飛び出して来たのは、金色の髪を持つ、末の弟ゼノファー。

 こちらが反応する間も無く、ゼノファーはいつもは情けなく垂れている瞳をしっかりと光らせ、持っていた剣を、振った。

 下から、ゼノファーの剣が俺の剣にぶつかった。いきなりの事に剣を握る手に力は入らず、ガァン!! と鈍い音を立てて、俺の剣は宙を舞った。




「チェックメイトです。兄上」

 キリリとした顔で、ゼノファーがそう言いつつ俺の首筋に剣を据えるのと、弾かれた俺の剣が少し離れた場所に突き刺さるのはほぼ同時だった。



「し、勝者、ゼノファー!」

 審判の声が響く。白い煙が晴れ、俺たちの姿が露わになると割れんばかりの悲鳴が会場を包む。

 それを合図にセリカとゼノファーは剣を下ろし、ゼノファーはその場に崩れ落ちた。




「ゼノファー! 大丈夫?」

「だい、じょうぶ……」

 先ほどとは打って変わって真っ青になりえずくゼノファーに、セリカは側にしゃがみ込んだ。今にも吐きそうな弟を見つめつつ、俺は口を開く。




「今の試合……、ワザとだろ」

「あ、分かった? ワザと最初の方はゼノファーに戦わせなかったの」

 嬉しそうに笑うセリカは、ゼノファーの横にしゃがみこみながらも言った。



「あんだけ私の力を見せつければ、必ず私に攻撃が集中すると思ったんだ。だから最後、私が先に飛び出して、ノインにチェックメイトさせた」

 得意げに言うセリカに思わず苦笑いが浮かぶ。


 つまり、ゼノファーなど脅威にならないと俺の油断を誘うため、ワザとゼノファーには最初戦わせなかったのだ。

 白い煙はゼノファーの姿を隠す事に一役買い、強いセリカにチェックメイトをした俺はすっかりゼノファーの事など忘れ去っていた。完全に、失敗した。




「だが、あの速度でいきなり龍化を解いたら、ゼノファーはそのまま吹き飛ぶはずだ」

「ああ、あれね。車とかみたいに、動く物に乗っている物は、動いている物が止まってもそのまま進むやつ」

『車』というものは何か分からないが、まぁその事だ。いきなり乗っている使い魔が止まっても、乗っている主人の体はそのまま進もうとする。あの速度だったら、絶対ゼノファーはそのまま飛んで壁にぶつかっていた筈。




「それは、重力緩和の魔法でなんとかした」

「……は?」

「重力緩和の魔法で、体にかかるその力を相殺したんだよ。まぁ、それでも体に負荷はかかるみたいだろうけど」

 地面に跪いて震える主人を見て、その使い魔は曖昧に笑った。




「まぁ、勝てたし。最後はゼノファーが頑張ったし。だから、早く仲直りしてね」

 言われている意味が分からないまま、数秒固まって、ああそういう意味かと、俺は苦笑いをした。




「ゼノファー勝ったぞ今日は焼き肉だ!」

「う、ウプ、も、ヤバッ……、ウエエエ」

「ぎゃあ!? ヤバい、ゼノファーが吐いた!! この中にお医者様はいらっしゃいませんか~!」

 騒がしい使い魔に、俺はただただ苦笑いしか浮かばなかった。



試合は、14分19秒という異例の速さで幕を閉じた。





試合内容が分かりにくかったら言って下さい。書き直します(汗)

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