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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
3品目 ベ・ゲタルと新たな挑戦

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62/305

62.予想外、言語の壁⁉

「ふたりでええモンで?」

「へ?」

「こっちのミスだば、もうじわげねぇ。げぇりにええ部屋ばあるで、そごでええモン? 部屋交換がや」

「えっと……?」


 ホテルに到着して、早速予約した部屋に通してもらおうとフロントへ声をかけたんだけど。

 微妙に分かるような分からないような言葉に、こんなにも苦戦することになろうとは!


 ネクターさんはホテルの駐車場へ車を止めに行っちゃったし……。

 こんなことなら「予約してるホテルの部屋くらい一人で確認できます!」なんて言わなきゃよかった!


 同じクィジン語だからって油断していた。

 ベ・ゲタルは思っていたよりも方言がきつい。こんなにも聞き取れない言葉があるなんて。


 なんだかよく分からないけど、お部屋を交換したいって言ってるような。

 でも、違ったらどうしよう。部屋がないから違うホテルに行け、とかだったら困るし……。


 どうしよう、どうしよう、とうんうん悩んでいると

「お嬢さま?」

 と救世主の声が聞こえた。


「ネクターさん!」

「どうかされましたか?」

「えぇっと……。実は、お部屋がないようなんです」

「え⁉」


 多分、間違ってないと思う。さっきからフロントの人も謝ってくれているし。

「思ってたより言葉が聞き取れなくて……ごめんなさい……」

 正直に話して素直に謝ると、ネクターさんは「いいえ」と小さく首を振った。


「大丈夫ですよ、僕が話してみますから。少し待っていてくださいね」

 ネクターさん! なんて頼りになるんだ!

 やわらかに細められた目元が安心感を与えてくれる。


 ネクターさんの後ろについていくと、フロントの人が彼に何かを尋ねる。

「アンダ、がれじだば?」

 うぅ……やっぱり、わかりそうでわからないのが悔しい! クィジン語でもこんなに違うなんて!


 ネクターさんは少し悩んだ後に、ベ・ゲタル(なま)りのクィジン語でスラスラと話し始めた。

 当然、私が聞き取れたのは半分くらいだったけれど、フロントの人にはしっかりと通じたみたい。


 部屋が空いていないこと。代わりの部屋を用意してもらうこと。そのかわり、二人が同じ部屋になること。

 ネクターさんがフロントの人が話している内容を簡単に教えてくれる。


「手違いで、ダブルブッキングしていたようです。このホテルで一番良い部屋が空いていて、同じ値段でそこへ変更してくださると。ですが、二人で一つの部屋なので……」

「私はかまわないですけど……」


 ネクターさんは今までも散々違う部屋が良いと言っていたし、ここはネクターさんの意見に従おう。

 私の返答に、ネクターさんは再びフロントの人と何やら言葉を交わす。


「わかりました。では、そちらの部屋でお願いします」

「良いんですか⁉」

「大きな部屋で、中が何部屋かわかれているみたいです。寝室を分けましょう」


 なるほど。ネクターさんは寝室が一緒なのが気がかりだったんだ。

 私がうなずくと、フロントの人がペコペコと頭を下げて鍵をこちらへ渡してくれた。

 どうやらこれで無事にチェックインは出来たみたい。


 荷物を持って、指定された部屋へと向かう。

 外観から綺麗なホテルだったけれど、その中でも一番良いお部屋だなんて。一体どんなところなんだろう。


 エレベーターに乗り込んで最上階のボタンを押すと、ネクターさんが、ふぅ、と息を吐く。

「代わりのお部屋を用意していただけて良かったですね」


「ありがとうございました! ネクターさんがいなかったら、私……」

「とんでもありません。お嬢さまだって、お部屋がないことは理解出来ていたではありませんか」


「同じクィジン語だって聞いてたから、大丈夫だって思ってたのに。半分くらい聞き取れなくて悔しいです!」

「半分も聞き取れていたら十分かと思いますが……」


「でも! もっとわかると思ってたから……。ネクターさんに迷惑をかけてばっかりで、なんだか申し訳なくって」

「ベ・ゲタルは、プレー島群の中でも特に言葉の使い方が特殊なんです。お気になさらないでください」


「いえ! 私も頑張って勉強しないと!」

「お嬢さまのそういった前向きな姿勢を見習わなくてはいけませんね」


「ネクターさんは、ちゃんと理解して話せてたじゃないですか! っていうか、どうしてベ・ゲタルの言葉が分かるんですか?」

「少し勉強を……。ハンドブックに乗っていた基本的な用語だけですが」


 船旅の最中、私が交渉術の本を読んでいる間に、ネクターさんはベ・ゲタルのハンドブックを読み込んでいたらしい。

 それだけで対応できるものなの⁉


「方言というか、癖を理解すれば、お嬢さまでもすぐに覚えられますよ」

 ネクターさんは、例えば、とハンドブックのページを開く。


 どれどれ、と覗き込んだ瞬間にエレベーターが止まった。目的の階に到着したようだ。

「後で貸してください!」

「もちろんです。一緒に勉強しましょうか」


 エレベーターを降りた私は気を取り直して、鍵にかかれた番号の部屋へと向かう。

 とはいっても、さすがはホテルで一番とされる部屋。フロアには三つしか部屋がないから迷うこともない。


 目的のお部屋を開けた瞬間――外に広がる海と緑が見えた。

 一面ガラス張りの大きな窓。コテージもついているようで、そこにはジャグジーまで。


「ほわぁぁ! すごい! すごいです!」

 リビング、オープンキッチン、寝室に浴室、どこを見てもとにかく広い!

 二人でここに泊まるなんて贅沢すぎるくらいだ。ネクターさんもびっくりして固まってしまっている。


「荷物をおいたら、まずは洋服と晩ご飯を買いに……と思っていたんですが、部屋から出るのも惜しいですね」

「本当ですね! すっごくいい景色!」


 苦笑したネクターさんが荷物を部屋の端におろして、ベ・ゲタルが一望できるバルコニーへと向かう。私も当然、その後に続いた。


「夜も綺麗なんだろうなぁ……」

「この辺りは建物も少ないですし、星が綺麗に見えるそうですよ」

「え! 素敵!」


 ベ・ゲタルの夜空を想像していたら、私の頭に天啓が降りてくる。

「そうだ! ネクターさん、今日はご飯を買って帰って、ここでディナーにしませんか?」

 お星さまいっぱいの夜空を見ながら、ネクターさんと食べるベ・ゲタルのご飯。

 うん。想像しただけで最高!


 私の提案にネクターさんも賛同してくれる。

 私たちは早速、晩ご飯とベ・ゲタルで着るお洋服のお買い物へと向かうことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手違いのお詫びでスイートルームにご招待ッ! なんたる幸運ッ! 訛りってわかりそうでわからないもんなんですよねぇ。ハンドブックで対応できるネクターさんスゲー……。 こんな良い部屋でテイクア…
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