288.スイーツコンテスト開幕!
スイーツコンテストの会場は、驚くほど活気に満ちあふれていた。
それもそのはず。デシの国で一番大きな公園を貸し切っての一大イベントだ。コンテスト出場者はもちろん、マスコミの関係者に、一般客まで。
それはもう見渡す限り、人、人、人!
「す、すごいです……! 迷子になりそうです……!」
シュガーローズコンテストを超える盛況ぶりに、もはや視点も定まらない。私がフラフラとしていると
「お嬢さま、こちらですよ」
とネクターさんが私の方へと大きく手を振った。
ネクターさんが指さした一つのテントには、お菓子職人だと一目でわかる人たちがこれでもかと並んでいる。
どうやら出場者受付らしい。
「こ、こんな人たちと競うなんて……」
「お嬢さま、今までの特訓を思い出してください。大丈夫です。それにほら、エプロンを着ている人たちが目立つだけで、実際には一般の出場者の方が多いですよ」
ネクターさんの言う通りだ。コックコートは白だし、どうしたってプロのように見えるから目立つけれど、よく見れば私たちと同じデシの服装に身を包んでいる人たちの方がよっぽど多く受付しているじゃないか。
「あ、ありがとうございます! 少し落ち着いた気がします!」
「ここまで来たら、後は全力を出し切るだけです。周りは気にせず頑張りましょう」
さすがはネクターさん。コンテスト慣れしているだけのことはある。
ネクターさんのおかげで気持ちが楽になった。
私たちは受付列の最後尾に並ぶ。
周りの人たちがみんなお菓子作り名人に見えようと関係ない。
そもそも、ネクターさんはテオブロマ家の料理長だ。私には超すごい料理長がついてるんだぞ!
ふんすと鼻を鳴らせば、「気合十分ですね」と何も知らないネクターさんは笑った。
それにしても、と周囲を見回す。
公園にいくつも並ぶ大きなテントやお菓子のオブジェ、審査員のためのステージに観客席など、コンテストのために設営された会場に見覚えがあるのはなぜだろう。
あのステージの上に並べられたテーブル。
あそこで審査員たちがコンテストのお菓子を食べて審査をするのだと、誰に言われたわけでもないのに知っている。
もしかしたら、お母さまたちとデシへ旅行に来た時、コンテストの隣で一緒に開催されているスイーツフェスティバルに来たのかも?
フェスティバルは、コンテストに出場しないお菓子職人さんたちがお菓子を販売する場所だ。一般のお客さんたちはそこでお菓子を買って、コンテストを見ながらそのお菓子を楽しむらしい。
うん、多分そうに違いない。おそらく、その時にコンテスト会場を見ていて、ぼんやりと記憶に残っているのだろう。子供の時の記憶なんてアテにならないもんね。
「お嬢さま? どうかされましたか?」
私が一人違和感の正体にうなずいていると、隣でネクターさんが不思議そうに首をかしげる。
「いえ! なんだかコンテスト会場に見覚えがあるな、と思ったんですけど。多分、子供の時に隣のスイーツフェスティバルに参加したからかなって! ほら、昔、家族旅行でデシに来た時の話をしたでしょう?」
「あぁ、そういえば。お祭りみたいなところでおいしいケーキを食べたとおっしゃっておられましたね」
「それです! ネクターさん、よく覚えてますね!」
「いえ、不思議な話だなと思っていたので。ですが、スイーツフェスティバルのことであれば納得です」
まだ開場こそしていないものの、緊張感漂うコンテスト会場とは違って、フェスティバル会場の方からは楽しそうな音楽も聞こえてくるし。
まさにお祭りと呼ぶにふさわしい明るい雰囲気がこちらにまで伝わってくる。少しうらやましいくらいだ。
「そうだ! ネクターさん! クレアさんが来てくだるんです! 受付を済ませたら会いに行きたいんですけど……会えるかなぁ」
「この人ごみですからね。コンテストが始まる前に見つかれば良いのですが」
「エンテイおじいちゃんも応援に来てくれるって言ってたし!」
「そうですね。今回のお菓子にはエンテイさまのシュガーローズを使わせていただいておりますし、ご挨拶をしなくては」
もちろん、レーベンスさんとレックさんにも。
レックさんはボランティアスタッフとしてすでに会場入りしているはずだから、そのうち会えそうだ。
「受付を済ませたら、テーマを選ぶくじ引きですから、その後にでも挨拶周りに行きましょう。どうせくじ引きの後すぐキッチンには入れませんし、コンテスト開始まで時間もありますので」
ネクターさんの提案に「わかりました!」と大きくうなずく。
コンテストの直前なんて一番緊張するし、一人だったら焦っているところだっただろうけれど。
ネクターさんが先ほど気遣ってくれたおかげで、心の準備が出来た。
ここまで来たら、もうジタバタしてもしょうがない!
どうせなら、みんなに会って、一言でも二言でもおしゃべり出来たほうが気持ちも落ち着くし、うまくいく気がする。
「お母さまたちにも見せてあげられたら良かったんですけど……」
「最近はお忙しいようですね」
「うぅん……。ズパルメンティに着いた頃からですかね? どうしても急ぎで仕事を片付けなきゃいけないって、忙しくしてるみたいで。デシに着いてからは、ほとんど連絡が取れなくなっちゃって」
何もないと良いんだけど……。
電話もかけてはみたけれど、電話は繋がらなかったから、メッセージを見てくれているかどうか。
「でも! お母さまたちにサプライズで良い報告できるように頑張ります!」
これはあくまでも、私とネクターさんの武者修行の旅なのだ。お母さまたちのことは関係ないもんね!
拳を作って、ネクターさんへと向けると彼はきょとんと首をかしげる。
「頑張りましょうの合図です!」
「はぁ……」
「ネクターさんも手をグーにしてください! それで……」
ネクターさんの拳にコツンと拳を突き合わせる。
よし、これで気合十分だ!
「次の方、どうぞ」
ちょうどタイミングよく私たちの番も来たようだ。
「はい! よろしくお願いします!」
元気よく返事をすれば、受付のお姉さんがにっこりと微笑んで受付番号が書かれたバッジをくださった。
バッジを胸元につければ、私とネクターさんも準備万端。
いよいよ、スイーツコンテストが開幕する!




