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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
6品目 デシと花咲き誇る時

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264/305

264.波乱⁉ シュガーローズコンテスト(1)

 シュガーローズコンテスト当日。

 デシでも伝統のコンテストがいよいよ開催されるとあってか、町全体は妙に浮足立った空気に包まれていた。

 ホテルのロビーはもちろん、朝食会場も多くの人で賑わっている。


 けれど、その喧騒は陽気なものだけではない。どこかピリピリとした雰囲気も漂っていて、私は落ち着かなかった。


「なんだか妙に騒がしいですよね?」

 曖昧に言葉をぼかしつつネクターさんを窺う。

 ネクターさんは神妙な面持ちで、先ほどロビーで借りて来たであろうニュースパネルを差し出した。


「この記事を見てください」

 空中に投影されたのはシュガーローズコンテストについて大々的に取り上げた記事だ。

 画像をタップすると映像が流れ始める。誰かが録画していたものだろう。


「これって、昨日のガーデン・パレスの⁉ 水浸しになっちゃった事故ですよね。これがどうかしたんですか?」

「内容も読んでみてください。このニュースサイトが悪いのかもしれませんが……」

「えぇっと……伝統のコンテストに水をかけるトラブル? 犯人は()()()か?」


「どうやら、昨日の事故は誰かがわざとやったものなんじゃないかと推測されているようです。以前、デシの国民は伝統派と革新派に分かれていると話を伺いましたよね。シュガーローズコンテストもまさに、そういった派閥争いが絡んでいるんじゃないかと」


「そんな⁉ それはさすがに言いがかりですよ! 大体、このタイトル! どう見ても革新派の人が犯人だって決めつけてるみたいじゃないですか」


「毎年、伝統派が有利だ、とか、今年こそは革新派が、みたいな話がコンテスト前に話題になるそうで……。昨年優勝したシュガーローズは伝統的なものでしたから、コンテスト前に流れた憶測を真に受けた方が、逆恨み的にこのようなことをしたのでは、と」


「だけど、あまりにも無差別すぎませんか? だって、おじいちゃんはシュテープの人だし、伝統派も革新派も関係ないじゃないですか! それに、他の人の鉢植えだって、どっちの派閥かは分からないんだから……」


 まったく迷惑な話である。

 ガーデン・パレスの人がきちんと経緯や原因を説明して謝罪している記事も出てくるというのに、こんなゴシップがニュースサイトのトップに来ていたんじゃ、せっかくのコンテストも素直に楽しめない。


「このニュースを受けて、今日のコンテストも少し警戒態勢が強められるそうです。おそらく大丈夫だとは思いますが、僕から離れないようにしてくださいね。お嬢さまも巻き込まれないとは限りませんから」


 ネクターさんはニュースパネルの電源を落とすと、小さくため息をついた。

「困った話ですね。食材も料理も、争いのためではなく、命をつなぐためにあるというのに」

 シュガーローズに罪はなくとも、コンテストは波乱の幕開けになるだろう。それを(うれ)いているのか、ネクターさんの表情は険しいままだ。


 みんながどこかピリピリしているのも、こうした記事に触発されてのことだろう。

 デシでは当たり前なのかもしれないけれど、やっぱり気分が良いものではない。


 触発されてしまいそうになるのをぐっとこらえて、私はパンケーキの残りひとかけらを口に放り込む。

 うん、おいしい。


「きっと、大丈夫です。おいしいものを食べれば、みんな笑顔になりますよね! ご飯を一緒に食べれば、仲良くもなれるし! シュガーローズコンテストって、シュガーローズの試食も出来るんでしょう? だったら、みんな、こんな記事のことなんて忘れちゃいますよ!」


 なんとか少しでも明るくしようと一生懸命に笑みを浮かべれば、ネクターさんも

「そうですね、お嬢さまの言う通りです。今は、コンテストを楽しむことを考えなくては」

 とようやくいつものイケメンスマイルを見せてくれる。


「おじいちゃんの応援もしなくちゃいけないし!」

「幸い、昨日のトラブルで出場できなくなってしまった方がいるとは聞いておりませんし、ガーデン・パレス側も、参加する審査員も、公平をうたっておりますから」


「そうだ、王族の人も参加されるんですよね⁉」

「えぇ、シュガーローズコンテストの審査員として来られるそうですよ」

「それじゃあ、きっと警察官の人たちもいっぱいだろうし、変なことにはならないと思います! いっぱい楽しみましょう!」


 デシの国の人たちにとってはなかなか切って離せない問題だろう。

 けれど、おいしいものの前ではみんなに笑顔でいてほしい。他国の人間である私たちが出来ることは、コンテストを少しでも楽しんで盛り上げることだ。


「よし! 会場に行きましょう! 今日はいっぱいシュガーローズを食べるぞ!」

 フルーツティーを飲み干して立ち上がる。ペチペチと頬を叩いて気合十分とアピールすれば、「まるで出場者のようですね」とネクターさんが笑った。


「いくら少量とはいえ、食べ過ぎると胸やけを起こすかもしれませんからほどほどに。ご気分が悪くなられたら、すぐにおっしゃってくださいね」

「はい! シュガーローズに包まれて永眠出来たら最高ですけど! まだいっぱい食べたいものもあるので!」

「永眠は絶対におやめください」


 ネクターさんもフルーツティーを飲み終えたのか、ゆっくりと立ち上がる。

 他の人たちもシュガーローズコンテストの開始時間が迫ってきているからか、ぞくぞくと朝食会場を出ていく。聞こえてくる話題もコンテストのことで持ち切りだ。


「ガーデン・パレスの会場も広かったし、きっとたくさんの人が来るんでしょうね!」

 普段はのどかなコロニーも、今日ばかりは国内外問わず、観光客でいっぱいになることだろう。

「早めに向かった方が良いかもしれませんね。きっと入り口は並ぶでしょうから」


 ネクターさんの言う通りかも。

 シュガーローズコンテストは一日中開催されているけれど、投票はお昼までだ。集計の時間や結果発表の時間も必要だし。

 そのせいもあって、午前中は本当に人が多いと聞く。


「どんなシュガーローズが出てくるのかすごく楽しみです!」

「見た目も味も素晴らしいものが多いですからね。ゆっくり見てまわりましょう」

「はい!」


 いよいよシュガーローズコンテストに向けて出発だ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結局は真実よりもキャッチーな見出しとか、誰かの陰謀だとか、誰々が悪いみたいな記事の方が読まれてしまいますからね。その辺は悲しいところではあるのですが…… _( _´˙꒳˙)_ でもフラン…
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