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おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
6品目 デシと花咲き誇る時

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258/305

258.叩き込め! 覚悟と情熱

 フォンダンショコラとオランジェットを楽しんだ後、私たちは近くのショッピングモールへと向かった。

 予約しているホテルがショッピングモールの中に併設されているから、ついでに他のお店も見てみよう、と私たちはウィンドウショッピングを楽しむ。


「どこもかしこもお菓子屋さんだらけですねぇ!」

「花屋も多いですよね。時期が時期だからか、シュガーローズを扱っている店が多いように思います」

「そう言われてみれば、シュガーローズって文字をあちこちで見るような……」


 ネクターさんに言われてあたりを見渡せば、少なくとも視界に三つ、四つはその文字が目に飛び込んでくる。

 シュガーローズコンテストに出場する人も多いだろうし、そうでなくても、みんな見に行くのだろう。デシでも伝統的なコンテストの一つなのだ。


「それにしても、シュガーローズっていろんな種類があったんですねぇ」

「シュテープで流通しているものは、昔から使われているメジャーなものばかりですからね。寒い地域でしか育ちませんから、栽培も難しいですし。デシでは気軽に育てられて、品種改良も盛んなのでしょう」


 スイーツによく使われることも影響しているだろう、とネクターさんは補足して、花屋さんの入り口に並ぶ色とりどりのシュガーローズを眺める。

 よく見る白色と赤色はもちろん、黄色にピンク、オレンジなど、本当にさまざまな種類があるようだ。


「品種によって、甘みも少しずつ違いますから、デシの菓子職人はまずシュガーローズの味を覚えるんだそうですよ」

「え⁉ そんなの分かるんですか?」

「全てが、とはいかないでしょうね。ただ、スイーツごとに合うものと合わないものを選ぶくらいはできないと、菓子職人としては中々厳しいんだとか……」


 ネクターさんの話が本当なら、ここにあるたくさんのスイーツショップのお菓子職人さんたちは、みんなネクターさんくらい舌が良いということになる。

 デシの人たちって、スイーツにかける情熱が本当にすごい。


 そんな人たち相手にスイーツコンテストで戦うなんて……。

 ネクターさんはともかく、私はもっと頑張らないと!


「よし! ネクターさん‼ 本屋さんに行きましょう!」

「本屋?」

「はい! 今からお菓子の本を買って、ちょっとでも勉強します!」


 ショッピングモールの案内板に駆け寄って、本屋さんの場所を探す。スイーツショップとお花屋さんはたくさんあるけど、本屋さんは一か所だけだった。

「行きましょう!」

 ズンズンと歩いていけば、ネクターさんが後ろから駆け寄ってくる。


「あの……たしかに、スイーツコンテストに出場するとは言いましたし、お嬢さまにもご協力はいただきたいと思っておりますが……お嬢さまはお菓子を作れなくても良いのでは……?」

「いえ! それじゃあ、優勝できません! 私は、ネクターさんと一緒に優勝したいんです‼」


 ぐっと拳を握りしめて見せると、ネクターさんは少しばかり目を見張った。

「正直、驚きました。お嬢さまが、そこまでおっしゃるとは思わなくて」

「あれ? でも、優勝しましょうって約束しましたよね?」

「しましたが……普通、社交辞令として使うものでは……」

 ネクターさんは本当に驚いているらしい。いつもなら苦笑いの一つや二つ浮かべていそうなところ、ずっと真顔のままだ。整ったお顔立ちである。


「そりゃあ、今の話を聞いたら、ネクターさんはともかく、私がいて優勝なんて夢のまた夢ですけど! ちょっとでも努力出来ることがあるんだったら頑張りたいです! この旅で、色々挑戦してきたけど、どれもなんとかなったし、頑張れば出来ることがたくさんあるんだなって思ったから」


 だから、頑張ります。

 はっきりとネクターさんの目を見て力強くうなずけば、ネクターさんはじっと私を見つめ返した。


「……わかりました。では、本屋に行きましょう。それから、その後は雑貨屋に」

「雑貨屋?」

「はい。お嬢さまがそこまでおっしゃられるのですから、僕もそれにお応えしたく。知識だけでなく、技術も身に着けていただきます」


 ネクターさんはにっこりと笑みを浮かべてはいるものの、その目の奥にはゴウゴウと炎が燃えている。

 どうやら、彼も本気になったらしい。


「技術って、もしかして……」

「えぇ。僕も練習しますが、お嬢さまにもしっかり手伝っていただきます。今日から毎日、お菓子作りの基礎技術をお教えします。それから体力作りも行いましょう。厨房は戦場です」


 ネクターさんは言うや否や、先ほどまでとは違って、私の前をズンズンと大きな足取りで歩いていく。

 置いて行かれないように私も必死に足を動かせば、ネクターさんがフッと私の方へやわらかく笑みを浮かべた。


「こうして、誰かと肩を並べて料理の技術を磨こうと思うなんて……エン以来です。まさかお嬢さまとそのような関係になるとは」

「ライバルじゃなくて、師匠と弟子か……良いところで、先生と生徒ですけど」

「いつもとは立場まで逆転するなんて」


 ネクターさんが複雑そうな顔をするから、私はついからかいたくなって

「よろしくお願いします、師匠!」

 と頭を下げる。


「やめてください。僕のことは普段通り、ネクターと」

 ネクターさんはやっぱり予想通り、慌てたようにブンブンと顔の前で手を振った。

 けれど。


「ですが、手は抜きません。僕の指導は厳しいらしいので、しっかりとついてきてくださいね」


 私の方に仕返しと言わんばかりのいたずらな笑みをすぐに浮かべる。

 ネクターさんの過去を思い出して、おそらく彼の言っていることは冗談でもなんでもなくて、ただただ事実だろうと私は顔をしかめる。


「出来れば、お手柔らかにお願いします」

 今度は本気で頭を下げると、ネクターさんが声を上げて笑う。

「まずはシュガーローズコンテストを楽しみましょう。スイーツコンテストは大切ですが、せっかくの機会ですから」


 一応、いつもの優しい心は残っているらしい。ネクターさんの善意に胸をなでおろす。

 当の本人は「楽しみですね」とすっかり料理長時代の心構えになっているのか、いつも以上に目がギラギラしているように見えたけれど。


 ちなみに、この後本屋さんで大量のお菓子の本を買うことになったのはもちろん、雑貨屋さんではエプロンと簡単な調理器具一式を買いそろえて大荷物になったことは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとッ! 遂にフランちゃんがガチでお菓子作りに挑戦をッ!? この主人公の行動力、安井さんらしいですなぁ。活力がみなぎってて、元気がもらえますッ! (⌒▽⌒) そしてネクター先生ーッ! …
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