表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかわり! ~お屋敷を追放されたかわいそうな私と料理長は異世界を食べ歩きます!~  作者: 安井優
4品目 衝撃続く紅楼国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/305

154.飯団でエネルギーチャージ

 エンさんとネクターさんが持ってきた大皿には、握られたお米がたくさん盛られていた。

 ほかほかと湯気を上げるお米からは、お米本来の良い香りと香ばしいお肉のような香りがする。


「これは?」

飯団(ファントン)だ。モチ米やら肉やらがあったからな。簡単なものだが、腹にたまるし食べやすいだろ?」


 エンさんの説明に、ドラゴンハンターのみんなは「おぉっ!」と声を上げる。

 どうやら紅楼(クロウ)ではメジャーな食べ物らしい。


「最悪これなら、食べきれなくても持ち歩けるな。やっぱり、さすがエンだ!」

「そう思うなら、今度から昼飯を注文してくれよ」

「はは、悪いね。いつもは家内が用意してくれるんだ」


 ロウさんとエンさんはそんな風に世間話を交わしながら、早速一つずつ飯団(ファントン)を手に取っている。

 それを皮切りにしてか、他のメンバーも次々と手を伸ばす。私も一緒になって、まずは一つ、飯団(ファントン)をいただく。


「酒は飲めないが、せっかくだから音頭だけでもとっておくか」

 ガードさんの提案にうなずいたのはイーさんだ。

「そうだね。今日はお客さまもいるし、狩猟もうまくいくようにってことで……一帆(イーファン)風順(フォンシュエン)でどうだろう」


一帆(イーファン)風順(フォンシュエン)?」

「何事もうまくいくって意味だよ、レディ」

「素敵な言葉ですね! 教えてくださってありがとうございます!」

 教えてくれたレイさんにお礼を言えば、レイさんはにへらっと笑う。


「それじゃ」

 片手に飯団(ファントン)を持って、ガードさんが咳払いを一つ。

一帆(イーファン)風順(フォンシュエン)!」

「「一帆(イーファン)風順(フォンシュエン)!」」


 狩りがうまくいきますように、と願った言葉。

 いつもより多くの声がかさなって、それだけでなんだか気持ちが良くなるような気がした。


 食前の挨拶をすませば、みんな当然一口目を頬張(ほおば)るわけで……。

「ん!」

「うまい!」

「これはおいしいね」

 口々に感想が飛び交う。


 かくいう私も

「んん~!」

 一口目から様々な味が絡まりあうにぎやかな飯団(ファントン)のおいしさに声を上げた。


「これ、すっごく色々具が入ってておいしいです! お肉も、ネギも、甘辛いタレがきいてて……お米もモチモチでおいしい~! なんだか朝からすごく元気が出ますね!」

「わかる。これ、最高ね」

「フランちゃん、良い食べっぷりだね! オレの分も食べていいよ!」


「いやあ、エンは天才だな。俺は良い友達を持ったよ。この甘辛いタレが特に好きだな」

「タレはネクターが作ったんだ。俺は調理と味見だけだよ」


「そうなんですか? アンブロシアさんはすごいですね。紅楼(クロウ)の人の舌にもぴったり合う味ですよ!」

「いえ、そんな大層なことは。味見をした人間の舌が良いから、味が良くなるのです」

「それはそうかもしれないが、ネクターさんはもっと誇ってもいいと思うぞ」


 おいしい朝食のおかげか、和気あいあいとした会話があちらこちらで交わされ、場が和む。褒められることが苦手なネクターさんは、イーさんやガードさんをはじめ、周りから褒められて少し居心地が悪そうだけど。


 今までこんなにたくさんの人と一緒に食事をすることがなかったからすごく楽しい。

 これなら本当に良い狩りが出来そうだ。


「昼の分も作ってあるから、しっかり食べてくれ」

 エンさんの言葉にみんなの目がきらめいて、次から次へと手が伸びる。

 あっという間にたくさんあった飯団(ファントン)もなくなって、私も最後の一つを丁寧に味わう。


 ()めば()むほど甘みが出るモチ米と、その中に入ったお肉、ネギの食感は楽しいし、甘辛いタレがお米に染みて、どこまで食べてもしっかりと味がする。

 朝から食べるには少し濃いような気もするけれど、これから山を登って、ドラゴンを狩るんだ、と思えば、これくらいのほうがエネルギーも沸いてくるような気がする。


 しかも、お肉はドラゴンのお肉だ。深い大味ながら、ホロホロと優しくほぐれるそぼろは、旨味と(あぶら)がしっかりタレとマッチしている。

 少し青臭さの残ったネギのシャキシャキ感と香りがより、お肉の香ばしさを引き立てて、ネクターさんとエンさんの夢のコラボは文句なしだ。


「こんなにシンプルなお料理なのに、信じられないくらいおいしいです……」

 毎日でも食べたい。具が変われば飽きることもなさそうだし、シュテープにはあまりないお米の食べ方だけど、これならサンドイッチと同じくらい普及しそうだ。


「僕も初めて作りましたが、手軽で良いですよね。色々とバリエーションも増やせそうですし」

 私の呟きを聞いていたのか、ネクターさんがふっと笑う。


 エンさんとキッチンに立てたことが嬉しかったのだろうか、その雰囲気はやわらかだ。

 もしかしたら、何か腹を割って話が出来たのかもしれないし、そうでなくてもやっぱり料理をするのが楽しかったのかも。


「良かったですね、ネクターさん」

 言葉の真意がつかめなかったのか、ネクターさんはきょとんと首をかしげる。

「新しい料理を知るたび、旅に出て良かったな、とは思っておりますが」

「そういう意味じゃないけど……でも、それなら良かったです! 私も嬉しいし」


 どういう意味だ、とネクターさんは再び首をかしげていたけれど、それ以上は私も言及しなかった。

 ネクターさんが料理を嫌いになっているわけじゃなくて良かった。





「さ、うまい飯も食べたし、そろそろ出発するか」

「オッケーです! フランちゃん、オレ、超かっこいいところ見せるから、ちゃんと見ててね! マジかっこいいから‼」

「レイ、きもい」

「ロウさんも今日はよろしくお願いしますね」

「はい! こちらこそ!」


 ご飯を食べて一息ついたら、いよいよドラゴン狩りに向けて出発の時。

 ガードさんの声を合図に、みんなはそれぞれ廊下に立てかけてあった武器や道具を取って準備開始だ。


 私たちも脱いでいた上着を羽織ったり、荷物を持ったりして山に登る準備をする。

 なんとしてでも、焔華(エンカ)結晶を手に入れなければ……。

 チラとネクターさんを窺うと、彼も初めてのドラゴン狩り見学のせいか、どこか緊張した表情で窓の外を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おにぎりだーッ! しかも甘辛タレのお肉と、ネギッ!? 食べ始めたら絶対に止まらなくなるやつだ……じゅるり。 (゜△゜) ちゃっかりバリエーションを増やそうなんて口にしてるネクターさん。う…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ