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女神の涙  作者: 白崎なな
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ep.4 パレード

 ヴェリナ家の家紋のついた金の馬車。丸い球体のような形で、おとぎ話にでも出てきそうなそんな見た目。



 白い手袋をはめた御者(ぎょしゃ)が、恭しく頭を下げて馬車の扉を開いた。お母さまがいちばんに乗り込み、軽く手を上げたお父さまがその次に続いた。




 お父さまが伸ばした手をとって、私は馬車の中に乗り込んだ。内装は、真っ赤なベロア生地で出来ている。窓から見える外の景色は、キラキラとしている。女王も私たちも、身近な人間ではない。



 作られた階級社会は、この国を縛り付けている。

 



 国民は歓声を上げ、私たちを歓迎している。手には小さな国旗を持ち、パタパタと振る。顔を覗かせて、手を優雅に振った。



 カラフルな花弁を振り撒かれ、空から降って来ているようにも見える。家々からのびるフラッグも、風をうけてなびく。どこを切り取っても、華々しい。




「つまらないわ」



 ただ白いセンスで仰ぐだけのお母さまが、そう呟いた。外をじっと見つめ、何を考えているのかわからない。言葉とは違い、ぼんやりとせずに鋭い眼光をしている。それが獲物を見つけたカラスのように見えて、ヒヤリとする。




 ……つまらない、か。そんなのは、私も同意見だ。でも、お母さまのつまらないとは違う。お母さまは、月にいちどのお祈り意外に外出はしない。貴族もお母さまのことは、居ても居ないように扱う。




 金の髪を持つ最高爵位の女性で、御信託がなかった。




 ただそれだけなのに。私も御信託がなければ、こうなってしまうのだろう。お母さまは、もぬけの殻のようになるときがある。




 私ぐらいのときに、御信託があれば――。





「まぁまぁ……レティ、自宅でこのあとのんびり過ごせばいいじゃないか」



 お父さまは、お母さまのご機嫌とりで必死。オロオロとしながら、いろんな提案をしている。




 ネルシア王国は、女神崇拝のために女性が優位にたつ。そのため、結婚をしたとしても男性というのは女性の機嫌を重要視をするらしい。とくに、貴族はそれが顕著だ。




 お父さまは、ヴェリナ家に婿入りをしている。それも相まって、お母さまには逆らえない。お母さまが、私に圧をかければ同じようにするだけ。



 考えて行動をすることはあるのか、と問いたくなる。感情を殺してまで、お母さまの言いなりだなんて。……まあ、私も似たものか。




 ふたりから顔を背け、外を見た。降る花は、数が減った。南の都市を一周して来たのだろう。



 外にいる国民に向かって手を振るだけ。それでも、なぜか肩に力が入ってしまう。この重々しい空気から、早く解放されたいと願ってしまうのだ。




 いつも私の味方になってくれるお兄さまも、きっとどこかの家へ婿入りをするのだろう。私はどこへも行けず、ただこのヴェリナ家の檻に入れられたまま。ひとりぼっち。




 私に、耐えられるだろうか。そう考えてしまうと、苦しくて奥歯を噛み締める。




「なぁ、リシェル」

「はい」




 お父さまが、私の名前を呼んだ。真剣な眼差しに、緊張感が走る。優雅にも見える動きで、指を組んで膝の上に置いた。



 私は、何を言われるのかと内心ヒヤヒヤとしている。



「明日の学校から、金の髪をもつ子を集めての特別授業がはじまる」

「はい」



 パンッと乾いた音を出して、お母さまが私の返事に被せるようにしてセンスを勢いよく閉じた。そして閉じたセンスを指代わりに、私の方に向ける。



「いい? しっかりと学んで、女神の御信託を必ず受けなさいよ!」

「……は、い」



 眉を寄せ睨むような表情で、強くそう言った。生つばを飲み込み、私は震えそうになる声で返事をした。


 私にも女王になって、やりたいことがある。でも、それは努力でなんとかなる問題でもない。



 息が詰まりそうで、視線を床に落とした。

 それ以上に話などなく、程なくして馬車の扉がノックされた。中の様子を伺うかのような動きで、遠慮がちにゆっくりと扉が開く。



 御者(ぎょしゃ)が、扉の先で頭を下げる。




 話してる内容が外にまで聞こえていたのか? と思うほど、絶妙な距離感だ。気をつかわせて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。




「リシェルッ! こっちよ〜!」



 私と同じような金のストレートの髪を持つ、エレーナ・セシルだ。彼女もまた、私と同じように最高爵位を持つ家の子ども。そして、金の髪。




 まるで私と同じような境遇。




 性格的にもフレンドリーなエレーナとは、すぐに打ち解けた。同じ悩みを持つもの同士、傷の舐め合いなのかもしれないが。




 セシル家は、儀式や宗教を取りまとめている家。エレーナの祖母もむかし、女王になったこともあるのだ。




 私とエレーナとは仲のいい友人であり、女王に選ばれるライバルになる。しかも、彼女の家の方が女王に近い。

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