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傭兵サムライ、異世界に行く〜世界最強の傭兵は異世界でも規格外でした。(サムライ無双Web版)  作者: キー太郎
第二章 権威 ミーツ サムライ

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第40話 妖術ば使えれば楽やったんになー。(棒読み)

「これって王都に戻って、防衛部隊と合流したほうがいいんじゃないの?」


 風のように走る六郎の背中から、リエラが顔を出した。


 リエラの言う通り、レオン達の背後では地鳴りのような音が鳴り響いてはいるものの、今の所モンスターの影は見えないからだ。


「本来ならな……だが、今回のダンジョンは不死者型だ。やつら疲れを知らん」


 チラリと後ろに視線を投げたレオンが、「フゥ」と息を吐きながら、簀巻きの男を担ぎ直す。


「さすがに我々と言えど、人を抱えて全力疾走で王都までの距離はキツい」


 苦々しげな表情のレオンだが、リエラからしたらこの二人の体力が尽きるという想像が出来ない。


「辿り着くだけなら出来るさ。が、スタンピードは長丁場だ。そして相手は疲れを知らない……出来る限り温存できる体力は温存しておきたい」


 レオンの言葉に、リエラは再び後ろを振り返った。地響きは相変わらずだが、既に小さくなった森の姿。ドンドンと小さくなっていく森だが、振り向く前には未だ王都は見えていこない。


 確かに既にかなりの距離を移動しているが、ここから王都まではまだ五〇キロ以上はある。


 王都周辺で道が整備されているとは言え、普通に人を抱えて走りきれる距離ではない。


 本人は走れると言っていたが……成程、それだけの距離を走って帰ってから再び戦うというよりは、どこかで待機して横合いから少しつずつモンスターを狩っていくほうが理屈としては合っているのだろう。


 先程から黙ってただレオンの後ろをついて走る六郎に、「アンタ分かってたの?」と聞くと


「まぁの。奇襲やろうが、正面やろうが、戰場で最後にモノを云うんは足じゃけぇ」


 と笑い声が返ってきた。最初から分かっていて、尚且少しでも体力を温存するつもりで黙っていたのだろう。


 そう思えば、やはり長いこと戦に身をおいてきた人間なのだ。とリエラは改めて六郎という人間の人生が、壮絶だった事を思い知らされている。



「少し東に逸れるぞ」


 レオンの掛け声で今まで街道であった足元が、草原へと変わっていく――明らかに行軍速度が落ちたものの、流石は人外二人というところか。


 足元の見えない草むらの中を、それでも飛ぶように駆けていくその姿に、リエラは舌を噛まぬように、少しでも体力を残しておくように、口を噤むことにした。






「よし、この辺でいいだろう――」


 小高い丘の上、素早く男を降ろしたレオンが、懐から一枚の紙を取り出した。


「……地図……かいな?」


 横からそれを眺める六郎の呟きに、レオンが頷くだけで答えている。


 詳細な地図ではないものの、王都とその周辺が描かれた地図。それに自分の指を当てて、色々と考え込んでいる。


「……よし、ここが恐らくベストの位置だろう」


 地図を持ったまま立ち上がったレオンが、周囲を見渡す。


 六郎も同じように見渡すが、既に森の姿は見えず、ただただ広い草原が広がっているだけだ。


「ここはどの辺になるんじゃ?」


「ここだな――」


 レオンが指差すのは、王都よりも大分森に近く、そして王都と森を結ぶ線からは少し外れた場所だ。


「スタンピードは大体放射的に広がり、最終的には横幅一キロから二キロくらいまでになる。それらが進行方向にあるものを、飲み込みながら進んでいくんだ」


 話すレオンが、森から親指と人差し指を広げつつ、王都方面へと向かわせる。


 その指に、六郎達が今いる地点も飲み込まれるが、それでも構わずレオンが続ける。


「王都から森まで直線距離で六〇キロほど。そして私の指の幅二個分で辿り着くから――」


 と地図の縮尺と、指の幅から算出した距離で今のポジションの説明をしている。


 六郎からしたら単位こそ不明だが、流石に禅寺で学問を収めただけはある。レオンの数字から、ここがスタンピードの東端から僅かに外れた場所だと言う事だけは理解していた。


「成程。ここでひとまず休憩を取って、()()()()()()が来たら横から殴りゃエエんじゃな?」


「そういうことになるな」


 休憩ということを体現するように、レオンがその場に腰を下ろした。


 正面切ってスタンピードと戦わないのは、証人である男の身柄もあるが、それ以上にどの程度の規模で来るかが分からないのだ。


「これって、横から殴ったらこっちにヘイトが向くってことはないの?」


 いつの間に準備したのか、クッションの上に座るリエラに「()()()?」と六郎が首を傾げるが、レオンもリエラもそれには答えない。


「ヘイトは向くだろうが、基本的に進行方向が変わることはない。……スタンピードはその発生源から一直線に進む。そしてあの洞穴の直線上にあるのが――」


「――王都ってわけね」


 リエラの言葉にレオンが頷いた。


 要は王都へ向けて進軍する軍隊の横腹に攻撃を仕掛けた所で、それに気がついた少数がこちらに来るだけで、全体としての流れが変わることはないのだ。


「よう分からんが、とりあえず分かっとるんは休まねばならんっちゅう事じゃな」


 ドカリと腰を下ろした六郎が、胡座をかきリエラに視線を投げる。


「……なによ?」


「鍋と食料ば出しちゃらんね?」


 唐突過ぎるお願いに、一瞬固まるリエラとレオン。漸くその意味を理解できたリエラがフリーズから復帰。


「はあーーー?」


 曇り空すら割らん勢いの、盛大な疑問符が草原に響き渡った。


「アンタ莫迦なの? もうすぐでモンスターの大行進が来るのよ?」


「応、じゃけぇ飯ば食うんじゃ。ワシの国には『腹が減っては戦はできん』っち言葉がある」


 胡座のまま腕を組む六郎の顔は、真剣そのものだ。


「ワシらは昨日の晩に飯ば食うてから何も食うてはおらん。まずは腹ごしらえ。戦ん途中で倒れんためにも、飯ば食わなならん」


 冗談ではない。そういった表情の六郎に、レオンも「一理あるが……」と苦笑いしつつ賛同はしている。


「あー、もう! 分かったわよ」


 リエラのポシェットから出てくるのは大鍋に肉、野菜と言った騎士団から掻っ払った物資の数々だ。


 リエラが魔法で竈を作り、レオンが薪を並べ、六郎が狐男から拝借した剣で肉や野菜を切っていく――「アンタそれ首斬ってたやつじゃないの」というリエラの非難をスルーしながら。


 ポコポコと煮え始める大鍋。

 だんだん近づいてくる地響き。

 立ち昇る空腹をくすぐる匂い。


「もうエエじゃろ」

「まだよ! 豚はちゃんと火を通さないと駄目」


 伸びる六郎の箸と、それを止めるリエラの手。


「……一理あるとは言ったが」


 保存食ならいざしらず、本当に鍋を囲むことになった現状に、苦笑いすら出ないレオン。


「よーし! 食うぞ!」

「ちょっと、ロクロー! お肉ばっかじゃなくて野菜も食べなさいよ!」


 あんなに盛大に「はあ?」と言っていたリエラが、この発言である。


「……おかしいのは私だろうか?」


 振り返ったレオンの視線の先で、簀巻きの男が申し訳程度に首を振っている姿に、レオンは少しだけ感謝してしまう。


 とは言え、腹が減っているのは事実だ。


 食える時に食う。

 休める時に休む。


 それが出来てこそ戦士。腹を括ったレオンが、大鍋に向けてフォークを突き出した。


「こぉらレオン! そん肉はワシが育てたやつやねぇか!」

「何が『ワシが育てた』よ! アンタじゃなくてアタシが狙ってたんだからね」

「悪いな……早いもの勝ちという言葉があるんだ」


 もう吹っ切れたように口角を上げたレオンがその肉を口に放り込んだ。


 その様子に六郎もリエラも嬉しそうに笑い、三人で鍋の中の肉や野菜を平らげていく――


 地鳴りが大きくなり、遠くに土煙がうっすらと見え始めた頃、鍋の中はすっかり空になった。


「ふぃー。食ったわい」


 腹を叩きながら横になり、口に加えた楊枝を上下させる六郎。ゲップすら出そうなその勢いに、「アンタ莫迦でしょ! お腹一杯になってどうすんのよ!」とリエラが眉を吊り上げている。


 実際鍋の半分を平らげたのは六郎なので、リエラのツッコミにはレオンも頷くしかない。


「なーんを言いよんじゃ。まだ甘味は食えるぞ?」

「駄目じゃない! それ完全に駄目なやつじゃない!」


 ツッコミが止まらないリエラに、レオンも呆れた顔で二人を見ている。


「心配せんでも、戦んなりゃ自然と動けるわい」


 そう笑う六郎の視線は、先程から近づいてくる土煙を一点に捉えている。



 大きくなる地鳴り。

 近づいてくる土煙。

 顕になってくるモンスターの影――。


 ゾンビやグール。その上位種であるワイトやレヴァナントが大半を占めているが、中にはレイスやスペクターなどの霊体に上位種であるファントム。そしてもちろんリッチのような強敵まで――不死者型のモンスターの大行進だ。


「おうおうおう! 関ケ原ば思い出すの!」


 目算、一〇〇メートル程前を通り過ぎようとするその大軍に、六郎が起き上がり楽しそうに笑っている。


「あれん横っ腹ば、食い破れば良かとやろ?」


 伸びをしながらレオンを振り返る六郎。その身に纏う空気に。リエラはおろかレオンも呆気に取られている。


 大軍を前に怖気づくどころか、先程まで囲んでいた鍋を前にしているような楽しそうな空気なのだ。


 その空気に気圧されたように、ただただ頷くしか出来ないレオン。


「よっしゃ、一番首はワシが貰いじゃな」


 狐男から掻っ払った剣を片手に、六郎が腰を落とした――


「いや、待てロクロー。一番槍はリエラ嬢の魔法に頼みたい」


 気圧されたのも一瞬、冷静なレオンが六郎の肩を掴んだ。それに不満そうに振り返るのは六郎。


「そんな顔をするな。私達が突っ込んだ後では、リエラ嬢の範囲魔法など使えないだろう?」


 レオンの言葉に「道理じゃな」と素直に頷いた六郎。視線をリエラに移し――


「戰場ん誉ぞ? 派手なの頼むわい!」


 完全に戦闘モードの獰猛な笑いを向けた。


「はいはい。それじゃ――」


 リエラが杖を掲げると、曇り空を突き破りいくつもの光の柱が行進するモンスターへと降り注いだ――


 光に当てられ蒸発していくモンスターたち。


「ここでリエラに妖術ば撃って貰うだけで、エエんやねぇか?」


 その光景を手でひさしを作りながら、面白く無さそうに眺める六郎。


「それは出来ない。あまり大規模にやり過ぎると、向きが変わるからな……この先にある街は防衛体制は整えてはいまい?」


 剣を抜くレオンに、「ま、暴れられるんなら何でもエエわい」と笑う六郎が再び腰を落とした。


「では、リエラ嬢。第二弾を頼む――ロクロー、突っ込むぞ! 遅れるなよ?」

「誰に物を云うとる。お主こそ遅れなや」


 笑い合う六郎とレオン。その視線の先でもう一度雲が割れ、光が降り注いだ――


「突っ切るぞ!」

「応さ!」


 レオンの合図で弾かれたように二人が大軍へと突っ込んでいく――。

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