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傭兵サムライ、異世界に行く〜世界最強の傭兵は異世界でも規格外でした。(サムライ無双Web版)  作者: キー太郎
第二章 権威 ミーツ サムライ

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第38話 襲い来る権力。それをどうにかするなら「コレが一番」って言ってました。

 ボンヤリと光る壁と床――その中央にあるのは、脈動するように明滅を繰り返す光の玉。


 ダンジョンの最奥。ダンジョンコアがあるその部屋は、唯一モンスターの発生も侵入もない安全地帯だ。


 防衛機能としてのモンスターだが、別段ダンジョンに操られているわけではない。故に過ってコアを傷つけたりする恐れがあるため、コアの自己防衛機能としてこの部屋だけは絶対に不可侵なのだ。


 そしてそんな安全地帯に人影が一つ――


 激しく明滅を繰り返すコアに置かれた手、その手で影になり顔はよく見えない。


 それでも仕立てのいい服を着たその人物は、本来ならダンジョンにいる人種ではないのだろう。


「……致し方あるまい」


 呟く男の声。落ち着きのある低い声は、ダンジョンが上げる唸り声に負けない奇妙な圧力がある。


「……スタンピードにでも遭ってもらうか」


 再び響いた低い声のあと、人影はいつの間にか消えていた。


 残ったのは明滅を繰り返すコアと、先程より少し大きくなったようなダンジョンの唸り声だけであった。



 ☆☆☆



 一階層も駆け抜けて、三人がダンジョンの外へと飛び出したのは、既に空が白くなり始めた頃だった。


 森に囲まれた崖。その前にポッカリと空いたダンジョン前の広場は、明るくなり始めた空に、少しずつ色を付け始めている。


「あれ? 誰もいないじゃない」


 色を付け始めた広場で、六郎の背中から飛び降りたリエラが、当たりをキョロキョロと――。


 明るくなり始めた空が映すのは、拠点の名残――点在する焚き火の跡や、真新しい杭の跡だけだ。


「クライシスが始まった時点で、引き上げたのだろう」


 簀巻きの男を地面におろし、肩を回すレオンが「指示通りで何よりだ」と思わず苦笑いをこぼしている。


 ……そう。自分が指示したとは言え、今後のことを考えると苦笑いの一つもこぼしたくなるのだ。


 苦笑いのレオンと対照的なのは、少しだけ嬉しそうなリエラだ。


「てことは、今頃王都はスタンピードに備えて戦々恐々ってわけ?」


「そうなるな」


 溜息をつくレオンに、対して「アタシ達、スタンピードを止めた英雄じゃない?」とはしゃぐリエラ。


「……そうだと良いんだがな」


「何よ? 本当のことだし、胸を張って帰ったら良いじゃない」


 座り込むレオンに、リエラが頬を膨らませている。


 ちなみに六郎はというと……リエラに貰った水で首を洗い清めるのに忙しく、二人の会話など耳に入っていない。


 目を輝かせ「報奨金はどれくらいになるかしら」と呟くリエラ。


 眉を寄せ「むー。こん首()は毛むくじゃらで洗いにくいの」とボヤく六郎。


 事の重大さなど分かっていない()()()()()に、レオンは頭が痛くなるのを抑えられない。


 とりあえず説明だけをと思い、億劫になる気持ちを吐き出そうと、大きく溜息をついた。


「二人とも、王都に帰ったら騎士団からの尋問があるだろうが……出来るだけ協力して欲しい」


 頭を下げるレオンに、「は? 尋問って何よ?」と眉を寄せるリエラと無言で首を綺麗にする六郎。


「今回の顛末、それに対する尋問だ――」


 真剣な表情のレオンが説明を始める。


 スタンピードこそ起きなかったが、それでもその前兆のクライシスは起きてしまった事。


 であれば調査隊である、リエラ達への聞き取りが行われるのは必至。


 もちろんクライシスに至った経緯に、リエラにも、勿論レオンにも落ち度はない。


 原因は、間違いなくクリストフ達にある。だが、()()()()()()()()()()()


 厳重封鎖中のダンジョンへ、第三者の介入。見張りをすり抜けての侵入というのは、騒動の大小に関係なく重大な失態なのだ。


 これが貴人の警護であれば? これが国家間の紛争問題であれば? 見張りをすり抜けた者がいるという事実、それだけで大問題。


 そして見張りの部隊への責任、それ即ち隊長への責任だ。


 仮にその隊長が、調査の先鋒としてダンジョンへ潜っていたとしても。


 見張りの配置への不備が無かったか。

 人員に不備はなかったか。


 そういった部分を突付いてくるのが、政治屋という種類の人間たちだ。


 そしてその政治屋のトップが、何という偶然か……あのクリストフの父親なのだ。


 ちなみに侵入者は息子含めて全滅……。このカードをどう切ってくるか、考えただけでレオンは胃が痛い。


「侵入を許した騎士団の責は仕方がないとしても……侵入してきた、あのお坊ちゃんも悪いじゃない」


 口を尖らせるリエラ。ようは、問われるのは騎士団の見張り体制不備だけであって、クリストフ達を殺めた事への責任は、問われる筋がないと言っているのだ。


「厳しいな。そもそも()()()()()


 頭を抱えるレオン。実際にレオンの言うとおりで、証拠がないのだ。


「侵入を誰も知らないって事? 誰も侵入を知らないなら、黙ってたら――」


「違う。その証拠じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 首をかしげるリエラの視線の先では、頭を振るレオン。


「でも、侵入したこともバレてないわよね?」


「ああ。今は、な……。このダンジョンは不死者型モンスターしか出ない。そして奴らは死体を食べはしない……」


 大きな溜息をついたレオンが顔を上げた。


「そしてクライシスが収まった頃、調査団が派遣され、そこで首無しの遺体が見つかるわけだ……」


 その真剣な表情に「マジで?」とリエラのコメカミを汗が伝う。


 クリストフ達が侵入したという物証はある。()()()()()()


 その事実に遠い目をするレオン。


 ダンジョンクライシスが落ち着いた頃、ダンジョンへの調査団が派遣されるのは確実で、そうすればダンジョン内に残してきたクリストフ達の遺体が発見される。


 このダンジョンは不死者型なので、モンスターに食されることもない。そして幸か不幸か、首を落とした事でグールやゾンビ化することもない。


 つまりそのまま腐敗して、白骨化するわけだが、彼らの装備や冒険者証は置いてきてある。


 なのでクリストフが、ダンジョンの中にいた。と言う証拠はバッチリ残っている。


 遠い目をして、今後の流れに思いを馳せたレオン。


 何度考えても逃れようのない現実に、何とか逃避しようと視線を動かした先、相変わらず六郎は、真剣な表情で首を洗っている。


 リエラも六郎の方へと視線を向け「うむ。綺麗になったの」と笑う六郎の姿に片手で顔を覆う。


 首を落としていようと、落としていまいと、腐敗が進んでいようが、進んでいまいが、結局は冒険者証でクリストフ達の遺体が判別される。


 だが、そんな必要がない程ドデカイ殺しの証拠を、嬉々として手入れする六郎に溜息も出ないのだ。


「侵入した罪で殺すのは少々やり過ぎって事よね?」


「クライシスの因果関係を、何とか彼らに結び付けられれば或いは――」


 悩むレオン達を手招いているようにすら見える首。今は綺麗に洗われた彼らが侵入してしまったから、クライシスが起きたという証拠はない。


 もちろん騎士達からは魔素計で出された数値や、規定人数の話も出るだろうが、そもそもが同時侵入可能人数は一五人程。クリストフたち四人を入れても七人だ。


 安牌をとって四、五人の侵入としていた所が七人になったからと言って、即座にクライシスが起きるわけでもない。


 恐らくクリストフ達が薬を使い、その全能感のままに見つけ次第モンスターを狩っていた事が原因なのだが、それを証明する手立てがないのだ。


 そもそもクリストフが、このダンジョンに来た理由すら証明しようがないのだ。


 下手をすると、逆にクリストフを呼びつけ「クライシスを理由に殺した」。と言われかねない程危うい状況にある。


「おそらくフォンテーヌ公は、子息の行動を知っているだろうが、それを認める事はない……」


 頭を抱えたまま、項垂れるレオン。


「……政争の真っ最中だったわよね?」

「少なくとも私自身は、その座に興味などないがね」


 顎に手を当て、考え込むリエラに視線だけを向けたレオン。


「最悪、政争の種にされる感じ?」

「十中八九……」


 引きつった顔のリエラに、同じく引きつった笑みで頷くレオン。もう笑うくらいしかないのだ。これからの事を考えると。



「あー、勢いに任せて殺してしまうんじゃなかった……」


 レオンが情けない声を上げつつ、その頭を掻きむしる。


 確かにあの極限状態の中では、「殺してしまう」という選択肢しか無かった。


 だが時間が経ち、冷静になって考えてみると、両手を斬り落として、「投降しろ」くらいはやっても良かったんじゃないか。もっと別の方法もあったのではないか。そう思えてならないのだ。


「……思わず殺ってしまいました……そう証言してきた犯罪者達の気持ちが、少しだけ分かるよ」


 諦めたように溜息をついたレオン。その視線の先では、一人だけ事の重大さが分かっていないように、綺麗に洗い清めた首を布に包んでいく六郎。


 リエラとレオン、帰ってからの事を想像した二人が、ほぼ同時に盛大な溜息をついた。


「アタシ、王都に帰りたくないんだけど」

「奇遇だな……私もだ……」


 これから起きる事を考えるだけで、二人は頭が痛くなる。




「なちゅう顔しとんじゃ? 凱旋ぞ? 胸ば張らんね!」


 不意に響いたのは、元気いっぱいな六郎の声。その声は嬉しさと言うよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()という表現の方があっている。


「アンタは気楽でいいわよね……その首の横にアタシ達の首が並ぶかもしれないのに」


 恨みがましく、六郎の持つ四つの包みを見るリエラ。正直死んだとしてもまた女神生活が始まるだけだが、何だかんだ気に入っているこの人生の終わりがこんな形かと思うと、恨み節の一つも出てきてしまうものだ。


「何を言いよんじゃ? こん首の横に並べるんは、()()()()()()()()()()()()()()


「は? どういう事?」


「国ば盗りゃエエ……そう言うとんじゃ」


 獰猛に笑う六郎。


 その言葉の重さを、リエラもレオンも理解するのに時間を要したのは言うまでもない。

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