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毅然とした対応をするベアトリスにマーヴィンは小さく震えながら、咎めるような視線を投げる。
「‥‥お、おい!」
「何でしょう‥?」
「誰の‥誰の許可を得て決めているッ!!事前の相談もなしに勝手に決めるなんて許さないぞ‥!?」
「あら、勝手も何もマーヴィン様は常にわたくしに意思表示をして下さったでしょう?」
「!!」
「それに同意したまでですわ」
ベアトリスの厳しい表情を見て、マーヴィンは唇を噛み締める。
「‥‥何故そんなに抵抗するのですか?わたくし、あっさりと承諾を頂けるかと思っていましたのに」
「‥そ、れは」
「ああ、わたくしの気持ちを利用したまま、婚約を継続して金は得たかったと?」
「‥‥っ」
「あらまぁ!そんな事を本当に思っていたとしたのなら、クズ野郎すぎて反吐が出ますわ」
「ッ何だと!?」
「それに、自分だけ好き放題していたいなんて‥些か都合がよすぎません事?」
「ち、違う‥!それはお前がしつこいからッ」
「しつこいから他の方々に手を出していいと?」
「――お前が、お前から逃げたかったんだッ!」
マーヴィンはバンッとテーブルを叩きながら立ち上がり、ベアトリスに訴える。
確かに身軽でいたかったマーヴィンにとって、ベアトリスの愛は重たかったことだろう。
だけど。
「‥‥わたくしと婚約する前から色んな方々に手を出しながら、逃げ回っていたではありませんか」
「‥っ!!」
「これ以上、貴方は何から逃げたいのですか?」
「‥」
「ああ、わたくしが教えてあげましょうか」
「いらないっ‥!黙れッ黙れよ‥!!」
「何も変えられない現実と自分自身の責任からでしょうか?」
「――ッ」
「女を取っ替え引っ替えして満たされまして?」
「なんだよ突然、お前っ!何なんだッ!!意味が分からない‥!」
「ずっとそうやって"分からない分からない"と、子供のように駄々を捏ねていれば逃げられるとでも思ってるのなら‥‥もう終わりですわね」
すると突然、何を思ったのかマーヴィンは大声でベアトリスを怒鳴りつける。
「――ふざけんなよッ!お前のせいで俺の人生の全てが狂ったんだ!」
「‥‥」
「お前と婚約していなければ、こんな事には‥っ!」
「本当、そうですわねぇ‥わたくしももっと早く目が覚めていればマーヴィン様を選ばずに済んだのに‥。残念でなりませんわ」
「‥ッ!」
「ですが、もう婚約破棄するわたくし達には関係ないことです。今から頑張ってお互い人生を立て直しましょうね?」
「‥‥」
マーヴィンの煮え切らない態度にベアトリスが苛々していると、ブツブツと小さな声で何かを呟き始める。
ベアトリスはそんなマーヴィンを冷めた目で見ていた。
「‥‥またそのご自慢の顔で、またどこぞの御令嬢を引っ掛けて援助して頂いたら如何です?」
「――お前ッ!俺をどこまで馬鹿にする気だ!!」
「貴方こそ我儘ばかり言って遊んでないで、少し現実を見て努力なさったら‥?」
「偉そうにしやがってッ!俺のことなんて上辺だけで何も見ていないくせに!」
「あら、マーヴィン様だってわたくしをウザい、消えろ、邪魔だと片付けていたではありませんか」
「うるさいっ!!」
「貴方の言った通り、邪魔者は消えて差し上げます」
「‥ッ」
「嬉しいでしょう?願いが叶って何よりですわ」
ベアトリスは優雅に微笑んだ。
瞳に映るのは肩で荒く息をしながら思い通りにならないと苛立っている惨めな男だ。
この不毛なやり取りも明るい未来の為ならば、いくらでも付き合おう。
「何故、急に‥!!こんな‥っ」
「わたくしは生まれ変わったのです」
「‥ッ」
「クソみたいな男にしがみ付くよりも、わたくしだけを見てくれる素敵な方を見つけますのでご心配なく」
「‥‥!!あぁ‥そうだ!そうだよなぁ?」
「‥‥?」
「ハハッ!婚約破棄した時点でお前は傷者だ!!お先真っ暗だな」
「‥」
「お前もどうなるか分かってるんだろう!?」




