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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第六章 田中、コラボするってよ

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第12話 田中、見送る

「はあ~、お腹いっぱいです~♡」


 食事を終えると、星乃は満足そうに言う。

 結局ミミックタンもロケットブルの肉も全部完食してしまった。


 結構な量があったはずだけど、ここには食いしん坊が二人……いや、三人もいる。一時間もしない内に消えてしまった。


「リリも満足したか?」

「りりっ!」


 食べすぎて風船みたいにまんまるの状態になったリリが、元気に答える。

 ころころと転がっててかわいい。何回か立とうとしていたが、短い足じゃ丸い体を支えきれず、その度にぽてっと転んでしまっていた。

 今はもう諦めてころころと転がりながら遊んでいる。


「さて、少し休憩したら帰るとするか。星乃は他になにかしたいことはあるか?」

「いえ、私も帰って大丈夫……あ」


 星乃はなにかに気づいたようにそう言うと、自分の荷物を漁る。

 そしてその中から一升瓶を取り出す。ラベルを見るに日本酒のようだ。


「ああ……これを置いてくるの忘れちゃった……」

「それは?」

「お父さんはお酒が好きだったんで、慰霊碑の前にお酒を置こうと思っていたんです。お父さんのお墓は地上にありますが……魂はここにあるような気がしていて。それにここで亡くなった他の方々も喜ぶかなって思いまして」

「なるほど、そういうことか」


 ダンジョンの中にある都合上、慰霊碑に来られる遺族は少ない。

 できる限りのことをしてあげたいと思うのは、自然な感情だ。魂なんてものがあるかは知らないが、星乃の父親も喜んでくれるだろう。


「じゃあ行くとするか」

「あっ、私一人で大丈夫です! すぐ戻ってくるので田中さんは休んでいてください!」


 立ち上がろうとした俺を、星乃はそう言って止める。

 ここから慰霊碑までは遠くないし、モンスターも全部倒したので安全は安全だけど……。


「しかしだな……」

「私のうっかりに田中さんを付き合わせるわけにはいきません! すぐ戻ってくるので、待っていて下さい」

「わ、分かった分かった。待ってるよ」


 星乃の押しに根負けし、俺は引くことにする。

 意外と頑固なところがあるんだよな、星乃は。


「じゃあ行ってきます! リリちゃんも待っててね」


 星乃がそうリリに言うと、リリは「しゃー!」と威嚇するように声を上げる。

 この前星乃家で膝の上に乗せてから、星乃を敵視するようになってしまった。普段からずっと抱っこしているようなものだし、嫉妬しなくてもいいと思うのだが、ペット心は分からない。


「気をつけるんだぞ」

「はい!」


 お酒を抱え、走っていく星乃。

 俺はその背中を見守るのだった。


◇ ◇ ◇


 田中と別れ、走ること数分。

 一升瓶を抱えた星乃は、再び慰霊碑のもとにたどり着いていた。


「ふう、着いた。お父さん、何度も来ちゃってごめんね」


 星乃は慰霊碑に一礼すると、その前にお酒を置く。


「これ、お父さんの好きなお酒なんでしょ? お母さんに聞いたんだ。お母さんもお父さんによろしくって言ってたよ。あ、もちろん亮太とあかりもね。二人ともお父さんに会いたがってたよ」


 慰霊碑を前に、星乃は胸の内を語る。

 先程来た時は、配信されていたし田中の目もあった。しかし今はここには誰もいない。ついつい胸の中に秘めていた言葉が口をついて出る。


「私もお母さんも少し抜けたところがあるから心配だと思うけど、大丈夫。みんな元気にやってるから。亮太とあかりもしっかりしてるから。だから……お父さんは安心してね」


 一筋流れた涙を拭い、星乃は慰霊碑に背を向ける。


 さあ、急いで田中さんのところに戻らなくちゃ。

 そう思った瞬間……その場に『がちゃん』という金属音が鳴り響いた。


「……え?」


 慌てて星乃は辺りを見渡す。

 しかしダンジョンの中に異変は見られない。人もモンスターの姿もない。


 いったいどこから音が? 焦りを顔に滲ませながら神経を張っていると、今度は大きく『ガチャン!』と金属と金属を叩きつけたような音が響いた。


「な……まさか!?」


 星乃はその音の正体に気がついた。

 それは慰霊碑の側にある、金属製の扉から鳴っていたのだ。


「う、うそ……」


 星乃の表情が、絶望に染まる。

 下層へ続く道を塞いだその堅牢な扉は、あるモンスターを下層に封じるために作られたものだ。


 その扉が、何者かに後ろから叩かれ、歪み始めていた。

 扉に付けられている金属製の錠とかんぬきが必死に耐えるが、その者の圧倒的な膂力を前に、壊れていく。

 扉の隙間から巨大な斧のような刃物が見え、空いた隙間から赤く光る瞳が覗く。


 その恐ろしいほど爛々と輝く瞳は……星乃のことをまっすぐに睨みつけていた。


「い、いや……」


 逃げなきゃ、助けを呼ばなくちゃ。

 そう分かっていても、星乃の足は動かなかった。


 戸惑い、驚き、そして恐怖。それらの感情が体の中でごちゃ混ぜとなり、思考と行動を鈍らせていた。


『ガアアアアアアアッ!!』


 恐ろしい咆哮とともに、扉は破られる。

 そして扉の後ろから、その化物は姿を表した。


 普通のミノタウロスよりずっと大きい体に、皮膚を裂かんとばかりに膨張した筋肉。

 体にはいくつも傷跡があり、そのモンスターがどれだけの死線を超えてきたかが、一目でわかる。


 背中には今まで斃していた探索者から奪った武器がいくつもあり、手には彼の巨体に似合う、大きくて禍々しい見た目をした斧が握られている。


 頭部には立派な角が生えているが、その一本は途中から折られ、なくなっている。

 その傷はモンスターにとって唯一の苦い敗戦きおく。今も無い角がじくじくと痛み、その度に脳が怒りを思い出す。


 ミノタウロス異常成長個体。

 隻角のバモクラフト。


 政府がそのモンスターに定めたランクは『SS』。

 都市を一体で壊滅できるほどの強さだ。


『オオオオオオオォ!!』


 怒りと歓喜の咆哮を、バモクラフトは上げる。

 復讐だ。復讐の時が来た。


 今も鮮明に思い出す、自分の仇敵。

 それと同じ匂いのする個体が自分の目の前にいる。


 バモクラフトはその醜悪な顔に、邪悪な笑みを浮かべると、星乃のもとに近づく。


 簡単には終わらせない。

 積りに積もった怒り。それをこの個体に思い知らせるのだ。

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― 新着の感想 ―
流石にダンジョン内で無意味に単独行動はアカンよ! そのせいで罪深いミノタウルスが1匹、ここで絶命することになるんですよ!
あら? 田中が何らかの理由で潜りバモクラフトと戦うのかと思えば向こうから来たのか(゜o゜;
[一言] とりあえず次回のBBQの品が一品増えたね!
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