第8話 配信事故(再び)
――――浜松町ビーチダンジョン、上層下部。
コラボカフェが建てられた場所から更に下の方に進んだ場所に、ダゴ助と三上はいた。
着ていた執事服を脱ぎ、動きやすい格好になっている二人。準備運動を一通り終わらせると、三上は二台のドローンを起動する。
ドローンはダゴ助と三上に一台ずつ付き、彼らを撮影する。それを見たダゴ助は眉をひそめる。
「なんでドローンを飛ばすんだよ。まさか配信するつもりか?」
「これは僕たちだけの勝負、そんなことするわけないだろう。これは不正防止措置だ。お互いの探索の様子を録画して、不正がないか監視する。目を離した隙にどんな卑怯なことをされるかわからないからねえ」
「ハッ! 笑わせてくれるぜ。俺様がそんな男らしくねえことするわけねえだろ。てめえこそこすい真似すんじゃねえぞ」
バチバチと視線をぶつけあう二人。
一触即発の空気。しかしここで喧嘩してはここまで用意した意味がない。三上はスマホを一台取り出すと、それをダゴ助に渡す。
「ドローン操作用のスマホだ。それで録画ボタンを押せ」
「へいへい、分かりましたよっと。ええと……これ? いや、ええ……これ、か」
ダゴ助はおっかなびっくりスマホを操作する。
彼もスマホを持ってはいたが、初めて触る機種で操作がよく分からなかった。
「……よし。こっちは準備オーケーだぞ」
ダゴ助はそう言って中層に続く道を見る。
すると彼らの知らないところでコメントが流れ始める。
"ん?"
"なんの配信だこれ"
"ダゴ助と三上くんじゃん、なにしてんの?"
"ここってコラボカフェのあるダンジョンか?"
"企画?"
三上はダゴ助に鋼鉄の牡鹿ギルドの社用スマホを渡した。
ダゴ助はそのスマホで「録画」ボタンを押そうとしたが、間違えて「配信」ボタンを押してしまっていたのだ。しかも二台のドローンは設定が同期していることもあり、二台とも配信状態になってしまっていた。
意図せず始まってしまった配信。
奇しくもそれはかつて田中がやったのと同じミスであった。
視聴者たちもそれに気づき、盛り上がり始める。
"二人とも配信されてることに気づいてなくね?"
"ダゴ助ミスったなこれはw"
"ファインプレーやね"
"おらわくわくすっぞ"
"わっふるわっふる"
"シャチケンにバレたら配信止められるから大事にするなよ"
"んなこと分かってるよ言わせんな恥ずかしい"
"盛 り 上 が っ て 来 ま し た"
「それではルールを確認する。僕たちはこれからダンジョンを潜り、モンスターの食材を集める。制限時間は二時間。その時間内に採った食材で勝負する」
"なんかおもろそうなことやってるやん"
"へえ、楽しそう"
"まさか裏でこんなことやってるなんてなw"
"祭だぜこれは"
"どっちもがんばえー"
「なあ、食材を集めるのはいいけどよお。勝敗はどうやって決めるんだ?」
「しょぼい食材をたくさん集めても仕方ない。採った食材の中でもっとも価値のある物を選んで、その価値を競う。市場価値を判断基準にしてるから、実際の価値と大きくズレることはないだろう」
「ふうん。ま、俺は不正されなけりゃなんでもいいけどよ」
「安心したまえ。そんなことしなくても君が勝つことはない。僕の勝率は100%なのだから」
キラン、と眼鏡を光らせる三上。
その様子を見た視聴者たちは盛り上がる。
"またやってるw"
"データキャラ復活だな"
"三上くんの小物感好き"
"ただダゴ助もかませ感強いからいい勝負だなw"
"でもダゴ助ってかなり強いよな? さすがに三上くんの分が悪いんじゃ"
"ダゴ助最近家でダラダラしてるだけだから弱くなってるんじゃ……"
"この前もイカに捕まってたしなw"
"こりゃいい勝負になるかもな"
"楽しみ!"
"酒とつまみ用意した"
"わいもなんか飲み物持ってくるか"
「この勝負で負けた方は、大人しく帰る。勝った方は田中さんのお役に立てるというわけだ」
「ああ、分かってる。安心しな、てめえが帰っても俺がその分リカバリーするからよ」
"バチバチやね"
"暴走してるなあw"
"おもろ"
"もっとやれ!w"
"しょうもないことで喧嘩するなあw"
"男には負けられない戦いがあるんだよ"
「それじゃあ開始する。開始と終了の時間はスマホのタイマーに設定してあるからな。それでは用意……」
三上とダゴ助は腰を落とし、走る構えを取る。
この戦いは速度が重要、スタートで勝負が決まると言っても過言ではない。
「「スタート!!」」
スマホが鳴ると同時に、二人は駆け出す。
こうして多くの視聴者に見守られながら、二人の喧嘩は幕を開けたのだった。




