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かくも長く凍てついた散歩の果てに

作者: jima
掲載日:2024/12/28

その晩僕は親友の浦路(うらじ)に電話で告げる。


「シベリアに行く。大草原で彗星を見るのだ」


浦路は多分いつもの薄ら笑いで通話を切った。



待ち合わせの深夜、大きなザックを担いだ僕に浦路は目を丸くする。

「本気だったのか、日世取(ひよどり)



散々な一日だった。

模試はE判定、告った女子に振られ。


憧れの安仁屋(あにや)先生には鼻で笑われた。

「こんな三角関数が解けないの?日世取」

(女王様の冷たい目線はちょい癖になるけど)


おまけに帰宅するなりバカハスキー犬、岩吉(いわきち)が尻を噛んだ。


もう明日の補習に参加する気なんか無い。

「行くぞ。シベリアへ」




浦路と僕は夜の道を歩き出す。


ホントの本気だったわけじゃない。

適当なとこで適当な理由をつけ戻ってくる、ただの散歩のはずだった。


だが冬の小雨は僕を頑なにした。


「日世取、気が済んだか?帰ろうぜ」

浦路の口調も癇に障った。


「360度の地平を見てからだ」


浦路はため息をつき歩き出す。何だかんだ親友だ。




雨が雪に変わって、さすがに心が折れた。


「おい、浦路…あれ?」

横を向くといつの間にか浦路が重装備で驚く。

厚めのコートに毛皮のフードで頭部を覆っていた。

「何だ、まるで極地の越冬隊…」


ゴウッと突風が吹いた。

気がつくと僕も毛皮の軍服姿だ。


「同志ヒョードル!しっかり!置いてくぞ」


同志?

猛吹雪の中、浦路を見る。


「アーニャ曹長、ヒョードルの反応が」


不思議な言葉の先に厚手の軍用コートを羽織った長身女性。

「軟弱者が。同志ウラジミール、ここに捨てていけ」


「しかし」


安仁屋先生?

まさに氷の女王だ。


「ふん、三角関数が解けないから凍土も溶けないのだ」

僕を冷たく見下ろし、鼻で笑う。

「このE判定が」


大平原は猛吹雪で何も見えない。


同志ウラジミール…いや、浦路の声が遠くに響く。

「ヒョードル!頑張れ!E判定でモテなくてお先真っ暗でもダイジョーブだ!」


…大きなお世話だ。


視界が暗くなっていく。

ただ深夜の散歩に出ただけだったのに…何でこんなことに。


「バウ!」


「うわっ」


岩吉が飛び出てきて、僕の尻に嚙みついた。


「イワン!それは餌じゃない!」

浦路は引き離すが尻が痛い。





「日世取、ボーッとすんな」

安仁屋先生が僕の尻をつねっていた。


教室に爆笑が広がり、僕は目を醒ました。

隣の浦路の薄ら笑い。

僕は茫然と黒板に書かれた三角関数の問題を眺めた。


補習中に酷い悪夢だ。


冷や汗をかく耳元に安仁屋先生の甘い囁きが。

「同志ヒョードル、冬の大三角形に彗星は見えたか」


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