マッドシェフ
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「はい、ではね、今回はですね、つちざんまいということで、土食に、挑戦してみたいと思いまーす」
「うん、なんでちょっとユーチューバーっぽい始め方なのかな?」
「さて、こちらに用意致しましたのは、主に土で作った土料理でございますー」
「すしざんまいポーズをするな」
「いかがでしょうか?」
「どうって……もうちょっと料理っぽく作れなかったの? 幼稚園の砂場でおままごとしました的な見た目のやつばっか」
「先に注意点を申し上げておきますが、今回使った土はちゃんと食用のものを用意しました。皆さんはくれぐれもそのへんの土を拾って食べないように」
「食べないよ。皆さんって誰だよ」
「では、さっそく試食していただきましょう」
「僕がいただくんだマジで。君、自分では味見した?」
「まずはこちら!」
「聞けよ。どこ向いてしゃべってんだ」
「土のタルタルステーキでございますー」
「バレンタインデー関係ないなぁもう」
「新鮮な土を丹念に手ごねして成形しました。では一口、どうぞ」
「……土の匂いがする」
「それはまぁ土ですからね。ウンコの匂いがしたらヤでしょう?」
「嫌に決まってんだろ! 食事中だぞ! ……食事中なのかなこれ?」
「つべこべ言わず食べて食べて。あーん」
「ぐ……。味は……特にないな」
「はい、特に味付けはしてません。まずは素材の味を存分に楽しんでください」
「だからその素材の味がないんだけど」
「では次のお料理。定番! 泥団子でございますねー」
「料理じゃなくて砂場遊びの定番だろそれは」
「なんの変哲もない泥団子に見えるでしょう? 一口かじってみてください」
「ん」
「なんと中に! 土が入ってるんです!」
「まったく期待を裏切らないな。あとジャリジャリする」
「内側の土は少し粒大きめの土で作ってあります」
「これ、歯の表面削れない?」
「土と一緒に歯も食べられるなんてお得ですねぇ! ギャアッ!」
「すまない。ちょうど手元に投げやすいサイズの泥団子があったからつい」
「食べ物を粗末にしちゃダメでしょうが!」
「食べ物じゃねぇだろコレ!」
「次はちゃんと土以外も原料に使ってます。デザートの土プリン。砂糖を溶いた卵を土と混ぜてじっくりと焼き上げました」
「土器じゃねーか!」
「だってプリンだったら焼かないと……」
「製法まで真似しなくていいよ! ゼラチン使え!」
「それだと土プリンじゃなくて土ゼリーでしょう?」
「土ゼリーでいいよ! なんでプリンにこだわるんだよ!」
「見た目的にチョコレートプリンっぽくなるじゃないですか」
「いや見た目は焼き物だよ。こんなもん食べたら歯ぁ欠けるわ!」
「ドレッシングをかければふやけます」
「プリンにドレッシングはかけないだろ! そこ路線外れていいのか……って泥水じゃん!」
「泥ッシングです。ぶぷぷーっ」
「ハハハ泥ップキックがお望みかな?」




