おむつ入学
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「ゲホッゲホッゴッホッ……うぅ」
「咳酷いね。ほら、プリン買ってきたよ。これ食べたら薬飲んで、今日はなにも考えずにぐっすり寝ろ」
「ありがど……ございまず……」
「急に風邪ひくなんてね。季節の変わり目に無理がたたったんだろう。まぁインフルエンザじゃなくてよかった」
「ずみまぜん。あなだに子育てと……家事と両方、やらぜでじまっで。仕事だっであるのに……」
「仕事は休んだからいいよ。こういうときのための有休だ。家事はもともとできるし、文の面倒見るのもいつものことだ。とにかく君はなにも心配する必要ないから、安静にしてて」
「……あなだど……ゲホッ。あなだど結婚じでよがっだ……」
「風邪のせいかいつもより感傷的だな。うん、僕も君と一緒にいられて幸せだよ」
「わだじはなにもじであげられないのにぃ。やくだだずでごめんなざい……ごめんなざい……」
「どんだけ気弱になってるんだよ。子育ても家事も普段は君がしてくれてるだろ」
「文ぢゃん、いまどうじでまずが」
「もう寝たよ。君がいないせいか、いつもより寝つき悪かったけど」
「ずみまぜん。どごろで、もうひどづおねがいが……」
「なに? 僕に聞ける範囲ならなんなりと」
「おむつ交換、じでもらえまずが」
「おむつ? 文はこないだおまるでできるようになっただろ。頭ぼーっとしてる?」
「いえ、文ぢゃんじゃなぐで、わだじの」
「君のかよ! なんで君がおむつしてんだ!」
「文ぢゃんのが余っでだので。あど、おじっごでトイレにおぎるの、おっぐうなので……」
「トイレにくらい起きろ。文はおむつ卒業したのに君は再入学か」
「蒸れてぎもぢわるいんでず。おぎゃあああ! おぎゃあああああああ!」
「泣くな。君のそれ、赤ん坊というより白面の者って感じだ」
「ナンデ、ワレハ、ニゴッテイル...…!?」
「自業自得だろ。念のため聞くけど小だけだよね? 大はしてないよね?」
「出ぞうど思えば、出ぜまず!」
「出すな。張り切るな」
「ああぁ、お尻ふきシートぎもぢいい……。ごれを待っでだんです。もっど激じぐ」
「なぜ僕はこんなやつと結婚したのか」




