おむつ卒業
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、三つの影が揺らいでいました。
「これより、文ちゃんのおむつ卒業式を執り行います。卒業生、入場」
「はい」
「厳かな雰囲気でなにやってんだ」
「見てのとおり、おむつ卒業式です。二人で話し合って、今日からおまるですることに決めたんですよ。ねー、文ちゃん」
「ねー」
「おー、そっか。いよいよ文もおむつ卒業か。おまるでできるようになったの?」
「いえ、まさにいまこれからおまるを初めて使うんです」
「なんだよ。卒業してから卒業式執り行えよ」
「卒業式が卒業試験なんです」
「試験通らなかったらどうなるんだ、式」
「明日また執り行われます」
「自動車学校みたい」
「では卒業生、着席」
「ふんっ」
「着席っていうか、着おまる」
「排泄」
「ん、お、おおおおおお!」
「厳粛な空気からの突然の雄叫びと排便音と臭気」
「いっぱい出たね……」
「やめろよ、そのいろんな意味で嫌なセリフ」
「ふぅ」
「あーまだ起立じゃない卒業生! まだ着席! 着席!」
「おしっこならともかく、大きいほうの処理はまだ無理だろう」
「最初から無理と決めつけていては、いつまでも卒業できないんですよ。卒業証書、授与」
「授与じゃねぇ。トイレットペーパーだろそれ。仮に卒業証書だとしてそれで尻拭かせるの教育として明らか間違ってるだろ」
「卒業、おめでとう」
「…………」
「受け取った本人困ってるぞ。どうするか教えないと」
「ほら、こうやって拭くんだよ? そしたらちゃんと拭けたか確認して」
「うぇ」
「そんな思いっきり臭い嗅ぐなよ」
「目を背けてはならん! これはお前から出てきたのじゃ! 元はお前の一部なのじゃ!」
「いきなり師匠キャラ出してきてなんの説教だ」
「卒業式なので」
「理由になってるか?」
「はい、次から自分で拭くんだよ?」
「無理だと思う」
「卒業生、起立。礼。……着席」
「また座るのか」
「ん、おおおおおお!」
「また出すのか」




