増大
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、三人は他愛もない会話を始めます。
「あ、見てあそこ、カモが泳いでる。珍しいね」
「おー、文ちゃん見て見て、カモさんだよ? カモさん」
「かもさん」
「ほら、こっちおいでっていってごらん? カモさん、こっちおいで」
「こっち?」
「カモさん、こっちおいで」
「かもさん……こっち」
「カモさん、カモーン」
「おい、やかましいぞ」
「若いうちからユーモアのセンスを磨いておいたほうがいいかと思って」
「センスないわ。ただでさえ寒いのにおやじギャグなんて教えるんじゃない」
「そういえば、最近聞いた話なんですが、カモのペニスは毎年生えかわるそうです」
「……疲労が溜まると下ネタに走りたくなるのはわかるけど、自重しろよ」
「羨ましいですか?」
「なにも。羨ましがる理由がない」
「毎年生えかわってくれたら、もし切り取られてしまうようなことがあっても安心では?」
「そんな恐ろしい状況が存在すること自体に安心できないよ」
「羊毛みたいに、カモのペニスにもなにか使い道があれば収穫対象になったのに」
「収穫って言うな」
「やはりそこは通常時収納されている器官。勃起していないと小さすぎて量が確保できなさそうですしね」
「疲労のせいかいつもより発言に遠慮がないな」
「ちなみにある種のカモは全長20センチものペニスを三分の一秒で伸ばしきるそうです」
「ふ、ふーん……としか言いようのない豆知識」
「市丸ギンの斬魄刀みたいですよね」
「引き合いに出すな」
「羨ましいですか?」
「だからなにがだよ。人間のソレがそんな瞬発力備えてたところでしょうがないだろ。カモの世界で必要な能力ってだけで」
「そうですね。カモのメスの膣は螺旋状をしていて、いざというときは気に入らないオスを拒否できるようになってるとか。これは女性として羨ましいです」
「……そうか」
「まぁ伸ばす速度は関係ないでしょうけど、20センチってたぶんあなたのより長いですよね?」
「だから引き合いに出すなっつーの。まず20センチより長いモノを持つ男なんてそうそういないし、必要性もないっつーの」
「男性の間では大きければ大きいほどいいものと聞きます」
「知らないが。そんな部分で競いあったことがないから」
「そうでなければ週刊誌やウェブ広告であんなに陰茎増大が謳われるわけないじゃないですか」
「いんけいぞうだい」
「変な言葉覚えさすな!」




