雑学王
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、三人は他愛もない会話を始めます。
「今年も今年とてセンター試験が無事執り行われたようですね」
「無事というか、毎年なにがしかあるけどね、あの試験」
「今年のセンター試験ではムーミンの出身地が出題されたらしいです。地理Bで」
「地理関係あるのか、それ。まず僕はムーミンの出身地を知らないんだが」
「ムーミン谷です」
「国はどこだ国は」
「フィンランド、らしいですね。ご存知でしたか?」
「いいや」
「はい、これであなたは地理B満点逃しましたー」
「ええ……普通そんな雑学みたいなの知らないでしょ。というか問題出す方はなにを意図してこんなん出したんだ。このくらいの文化的な知識、地理とは関係なく身につけていて当然ってことなのか」
「ところがどっこい、ムーミンの背景にある樹木とビッケの背景にある海、そして北欧の気候的条件および地理的条件を噛み合わせることで物語の舞台がだいたい予想できるのです!」
「高難易度過ぎる。名探偵か」
「逆にムーミンを知っている人にとってはサービス問題なんですよ、これ」
「でもセンター試験ってこんな難しかったっけかなぁ。僕の時代はもっと教科ごとの知識を問う構成だった気がする」
「問題の傾向が少しずつ変わりつつあるんでしょう。もはや単に記憶力があるとか計算が早いとかでは認められないのです。持てる知識を合理的に結びつける能力がこれからの大学生には求められていくのですよ」
「塾講師してただけあってわりと説得力あることを」
「あるいは大量の無駄知識を身につけた雑学王が求められていくのです」
「いや求められてないよ。そんなやくみつるみたいな大学生は」
「『白鵬は己が化膿の進んだ腫れ物になっている』」
「ものまねしなくていい。似てないし」
「『安っぽいメロドラマを見せないでほしい』」
「もう純然たるやくみつるだろ」




