数え上げ
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ」
「ん、今日はみかんで数え上げ教えてるの?」
「はい、無際限に数を数えるという能力は、人間が持つ究極の能力の一つですからね」
「ひとー、ふたー、みぃー」
「つ、はまだ難しいか」
「よーっつ、いつーつ、むーっつ」
「問答無用かよ」
「よー、いうー、むー」
「それでも頑張って復唱しようとするけなげさ、かわいさ、たまりません。ななーつ、やーっつ、ここのーつ」
「鬼か」
「なー、やー、ここおー」
「じゅっつ!」
「とお、な。無理やり十につを付けようとするな」
「……納得いきません。前からずっと気になっていました。この数詞、どうして一から九までつを付けていたルールが、十にきて突如姿を消すんですか」
「知らないよ。そういうルールなんだから仕方ないだろ」
「そういうルールだからとか、そういう法律だからとか、上から与えられたものにただ従っているだけでは、この世の理不尽に抗うことなどできません」
「そうやってすぐ話を大げさかつ意味のわからないほうへ……」
「だいたい十より上の数はどう数えるんですか。じゅういっつ、じゅうにつ、じゅうさんつですか」
「まずさっきいっつ、につ、さんつって数えてなかっただろ」
「こんな数え方では無際限に数え上げられるという究極の能力の使い道が……」
「とお以降はとおひとつ、とおふたつ、とおみっつ、って数えるんだよ」
「おお、なるほど。とおよっつ、とおいつつ、とおむっつ……おむっつって響きいいですね」
「なにに感動してるんだ」
「あ、文ちゃんそろそろおむっつ替えようか」
「そこから思い出すなよ」
「とおななつ、とおやっつ、とおここのつ……とおとお?」
「並べるな。それはトイレメーカー」
「二十は?」
「はた、だね。二十歳のはたちはここからきてるんだよ」
「おおおおお、なるほど! 納得しました。では三十はみそ、四十はよそ、五十はいそ……」
「そう。六十はむそ、七十はななそ、八十はやそ、九十はここのそ」
「百は……いそいそ?」
「今度は五十を足して並べたのか。なんかせわしないみたいだろ。百はもも」
「もも……では百三十は、ももみそ」
「まずそう」




