数える
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「さあ文ちゃん、みかんはいくつあるかな?」
「……ふたつ」
「おおおお正解! すごいすごい!」
「文に数教えてるの?」
「はい。こたつの上のみかんは転がして遊んでいたので、ついでに」
「おいおい、文、食べ物で遊んじゃダメだぞ」
「あ、遊んでたのは私です」
「お前か。やめろよ」
「こうした小さい頃からの身近なものを使った英才教育が、天才を育てるのですよねぇ」
「まぁ、厳しくして逆に数が嫌いにならないようにだけ気をつけてね。間違えても責めちゃダメだぞ」
「わかってます。この子、今日自分の年齢が言えるようになったんですよ」
「へぇ、見せて」
「文ちゃん、文ちゃんのとしはいくつですか?」
「ふたつ」
「すごーい! 当たってるよー!」
「実はふたつしか言えないとかいうオチじゃないよね?」
「違いますよ! 文ちゃん、お母さんのとしはいくつ?」
「はたち」
「そうだねぇ!」
「そうじゃねぇだろ間違ったこと教えるな。文、お母さんはみそジッ!」
「間違ってませんよ。あと一年あります」
「だからってハタチはもっと違う……」
「文ちゃん、お父さんのとしはいくつ?」
「はたち」
「その歳から変なおべっか言うな。これ、としはいくつ? ってきいたときに『はたち』って答えてるだけじゃないか」
「そんなことないですよ。文ちゃん、お母さんはいくつ?」
「ふたつ」
「あなたどういうことデスカ?」
「いやいやいやいやいや! 純粋に間違えただけだろ! なにを疑ってるんだよ!」
「文ちゃん、お父さんはいくつ?」
「ひとつ」
「そうだよねぇ。えらいえらい。お母さんは?」
「ふたつ」
「オイ」
「違うって! 絶対なんか勘違いしてるって! 僕、文と一緒にいるときはだいたい君もいるじゃん!」
「じゃあなんで間違えるんですか」
「だからなにかを間違って覚えてるんだろう。大方、君のママ友を第二のお母さんとでも思ってるんじゃない?」
「おめーあの子に手ぇ出してないよな?」
「文、この妄想バカを止めろ」




