ジム通い
小鳥のさえずる朝日の中に、三つの影が並びます。それらはくるくると互いに交差しながら、川沿いの道を進んで行きました。
「つかれましたー。もうあるけませーん」
「もうへばったの? まだ車降りてからたいして歩いてないぞ」
「なんであなたも文ちゃんもそんなに元気ハツラツなんですかー」
「君が運動不足過ぎるんだよ。僕はまだしも文に負けるってどういうことだよ」
「この子いつも公園で煌翼くんと追いかけっこしてますもん。けっこう体力ありますよ?」
「そうなのか。それで最近寝つきがやたらといいんだな」
「毎日全力疾走してればそりゃぶっ倒れるように寝ますよねぇ。私も、今日帰ったらたぶん動けません」
「君はもっと普段から動け」
「あんな狭苦しい家で自由に動けますかって。私に動いてほしかったら広い庭付きの一戸建てでも持ってきてください」
「ジム通いでもしてくれ」
「だめですよジム通いだなんて。あんな場所、不倫と浮気の温床じゃないですか。常連の逆三角形スイマーとかイケメンインストラクターの餌食にされてしまいます」
「偏見っていうか難癖つけたいだけだろ。そんなのは君が気をつけたらいいだけじゃん」
「あなたは人間の理性というものを信用し過ぎです。体を動かしアドレナリンを出すということは、動物的な本能を前面に押し出すことにほかなりません」
「だから性欲が湧いてきて浮気するって?」
「ご明察。筋トレなんてしようものなら男性ホルモンまで出てしまってもう動物化ですよ。ポストモダンですよ」
「関係ないよポストモダン」
「体に血液を回すとそのぶん脳に酸素が回らなくなって、思考能力も落ちそうじゃないですか」
「疲労で判断力が鈍るってやつね」
「『奥さん、このあと朝まで特別コースをうちでやろうとおもうんすけど、ぐへへ、どうすか?』みたいな」
「それにイエスと答えるとしたら判断力落ちすぎにもほどがあるだろ」
「そうでなくても同じ空間で汗を流すという行為はセックスを連想させます」
「君だけだよそんな連想するのは」
「毎日のラットプルダウンのリズムを合わせているうちに相手のことが好きになってしまうやもしれません」
「そんなガチの筋トレじゃなくてランニングマシンとか使えよ。逆三角形になろうとしなくていいから」
「ロデオマシンの上でユサユサと揺れている姿が周囲の男性を誘惑してしまうかも」
「そういうリアルにありそうな妄想もやめてくれ」
「ですからあなたは感謝すべきですよ。ジム通いするほど運動に興味のない私にね!」
「よく口が回るせいか、ほっぺたにだけは肉がつかないな」




