ぐうたら正月
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。
そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「ご飯だぞー。コタツから出てキッチンに来なさい」
「あー……飯ー……」
「めしー」
「正月だからってぐうたらし過ぎだろ。今日そこからほとんど動いてない気がするけど」
「はい、寝正月甚だしいですね。私自身これではダメだと思ってるんですが、体が言うことを聞いてくれなくて……来週末に締切が迫っているというのに! ああ!」
「しっかりしろよ。文のほうが早く台所まで来ちゃったぞ」
「めしー」
「動け! 動け! 動いてよ! 今動かなきゃみんな食べられちゃうんだ!」
「いやみんな食べちゃうことはないけどさ。ご飯冷めちゃうぞ」
「メニューはなんですか。雑煮と言われたら動けないかもしれません」
「安心しろ。パスタとフライドポテトとシーザーサラダだ。料理空間のお正月座標からかなり離れたラインナップにしてやったんだから感謝しろ」
「あなたすごいですね。どうしたら正月明け早々にそんなセコセコできるんですか」
「まったく褒められてる気がしない。セコセコはしてないよ。君がダラダラし過ぎだから相対的にそう見えるだけで」
「やる気分けてくださいー」
「文、お母さんたたき起こしてきてくれ。せっかく来てくれたのにごめんな」
「おかあおっきー」
「うん、起きる。お母さん頑張って起きるよ文ちゃん。でもリモコンで叩くのはめっ。ダメだよ。痛いからね。お父さん呼んできて」
「おとう」
「リモコンで叩かれたくなかったら起きろよ、もう」
「あなたに優しく抱き起こされるのを待ってたんですよぉ」
「かったるいなぁ。重っ! また太った!?」
「ふくよかになったと言ってください。年末に運動してたので多少のウェイトアップはプラマイゼロなはず」
「プラマイのプラス側が大き過ぎる気がする。うわぁ二の腕もお腹もぶよブョッ!」
「どこ触ってんですか」
「起こそうとしたら必然的に触れるだろうが!」
「不快な擬音語の使用は自重してください。太ったとかも言わない。私が太ると毎回確実にお気に入り減るんですから」
「自業自得だろっつーかなんの話だ」
「年々衰えるヒロイン力も私のやる気を奪うのです」
「悪循環」




