雪かき
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「あなたの実家周りは相変わらず雪が腐るほどありますねぇ」
「雪は腐らないけどな。そういう地域だから、仕方ない」
「到着して早々、屋根の雪下ろし手伝わされてましたね。お疲れさまこの上ありません」
「ああ、子供の頃から雪かきだの雪下ろしだの手伝いをよくさせられてた。集めた雪でかまくら作ったりね」
「いいじゃないですか。豪雪地帯の人って、他の雪が積もらない地域の子供より逞しい気がします」
「こっちだと夏より冬のほうが焼けるんだよね。だいたい顔だけだけどさ」
「透明な素材のウェアを着れば全身焼けられますよ」
「だからなんだよ。雪国の松崎しげるになりたいとは言ってないよ一言も」
「あと雪国の子供って雪とか氷柱を食べてるイメージ」
「食べないよ。かき氷じゃないんだから。道端の雪は車の排気ガス被って汚くなってるし、氷柱は氷柱で屋根の上のホコリとか鳥の糞とか混じってるから不衛生この上ないんだぞ」
「さっきから文ちゃん雪食べてますけど」
「気づいてたら止めろよ! お腹壊すだろ!」
「少しくらいの不潔に触れたほうが病気にならない体になりますって」
「他にあるだろ免疫力高める方法!」
「とりあえず手に取ったものは口に入れてみるお年頃ですから。こないだなんてこの子、砂場で土食べてましたよ?」
「うわぁ頭悪いなこいつ……じゃないよ! 止めろってば!」
「わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい」
「育つ前に寄生虫や細菌にやられるぞ」
「私も昔はよく食べたものです、土と砂」
「だからそんなバカみたいに丈夫なのか」
「うちの地元なんて地面にそれしかありませんでしたから」
「だいたいどこの土地も地面は土と砂でできてるだろ」
「雪のない地方で育った私からすれば、雪が食べられるというのは羨ましい限りなんです」
「こんな嬉しくない羨まれ方されたの初めて」
「それに雪国の子は毎日スキーし放題でしょう?」
「ああ、でも毎日はさすがに……まぁ、クロスカントリースキーとかなら学校の庭で毎日放課後にやってたけどね」
「いいですねぇ。私もそんな歳からゲレンデが溶けるほど恋したかったですよ」
「ウィンタースポーツができる代わりに雪かきさせられるんだぞ。それでも羨ましいか?」
「雪かきは男子にしてもらえばいいので」
「性別関係ないよ。人手になるなら駆り出される」
「雪でもマスでもカくのは男子のほうが得意でしょう」
「おっし雪に叩き込んだらぁ」




