聖夜の更新2017 She Like
彼が失敗したわたしを慰めてくれたとき、頭を撫でるその感触に、大好きだった今は亡き父を思い出した。よくよく考えてみれば、わたしが最初に恋をしたのは彼に対してではなく、忘れかけていたその感覚なのかもしれない。
「はぁー、まだ産まれたって連絡来ないよ……。大丈夫かな」
「そんな心配すんなって。出産って時間かかるときはめちゃくちゃかかるんだろ?」
「そうなんだ?」
「なんで男のおれのほうがよく知ってるんだよ。徹夜で分娩とかザラらしいぞ」
「な、なるほど、壮絶だね。渋滞なんて第一の試練に過ぎなかったと……」
「まぁケーキでも食べてのんびり待とうや。フルーツ山盛りとチョコ、どっちがいい?」
「ケーキ? あんたそんなのいつ買ったの? ていうか、どんだけクリスマスに気合い入れてんの?」
「違うわ。これはもらったんだよ」
「なんで? 誰に?」
「例の彼女にたまたまケーキ屋で会ってさ。買ったけどやっぱり今日は食べられない気がするからって。ズバリ予想的中だったな」
「そっか」
「まぁ、ぬいぐるみと交換でトントンってことにしとこうや」
「そうだね」
「で、フルーツとチョコどっち? この期に及んで食べないって選択肢はなしだからな」
「うん。じゃあ、フルーツ」
「よし、いよいよ頑固な姉ちゃんと、クリスマスを祝うときがきたか! 感無量!」
「そんなに嬉しいの?」
「ああ、ずっと憧れだったからな。ウィーウィッシュアメリークリスマス!」
「いつになくテンション高いねあんた。腕回しすぎて壊れた?」
「そういや姉ちゃん、渋滞緩和のことなんで言わなかったの? 感謝してもらえただろうし、好感度だって上がったんじゃね?」
「ああ、まぁ、そんなのわざわざ主張するほうがおかしいでしょ」
「それはそうだけど、そこは自然な形で教えるんだよ。実際あのまま渋滞突っかかってたら、どうなってたかわからんよ? 第一の試練っつっても、脱落したらそれはそれよ?」
「いいの。もう、主任の赤ちゃんが無事で、あの夫婦が幸せなら、それでわたしは満足だから」
「それは強がりじゃなくて本気で言ってんの?」
「うん。本気。だって、そのために今日あれだけ頑張ったんだもん」
「……そうだな」
「わたしね」
「うん」
「ちょっとだけ好きになれそうだよ、クリスマス」




