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1997/2024

聖夜の更新2017 Traffic Jam

 弟が指さす先にいたのは、わたしの好きな人と、その好きな人が好きな人だった。おいおいあなたはわたしに目もくれず一目散に帰ったんじゃなかったんかい。そう突っ込みたかったが、現状、クリスマス渋滞に巻き込まれてしまったらしい彼の顔は焦りに満ち満ちている。彼女のほうはなぜか笑っているが、どうやら二人でパニックに陥らないように強がっているようだ。




「姉ちゃん、あれ」

「行くよ」

「は? 行くってどこへ? まさか帰んの?」

「そんなわけあるか。あそこに並んでる車をどかす。手伝って」

「は?」


 彼らが通っている産婦人科は知っている。わたしはストーカーじゃないけど、その場所も地図で調べて知っている。彼らが通るであろうルートは、駅前まで来ていることから察するに、商店街を抜ける道だろう。いや、あそこはいまクリスマスで歩行者天国だったはずだから、その向こう側の環状線か。


「どかすって、どうすんだよ。車体持ち上げんのか?」

「あんたいつからそんな面白いギャグ言えるようになったの? もちろんみんなに頭下げて遠回りしてもらうに決まってるでしょ」

「ほ、本気で言ってる?」

「少し狭いけど、あそこの横道使えばバイパス作れる。あんた誘導係ね。はいペンライト」


 護身用に持ち歩いているブザー付きライトを弟に渡し、なかば無理やり役割を押し付ける。


「マジかよ……この渋滞どこまで続いてるかわかんないのに? バイパスって、抜けられなかったらバイパスじゃねーぞ」

「お願い。後でクリスマスでもなんでも祝ってやるから手伝って」

「……へー。じゃあ手伝わないわけにいかないな。まぁそんなこと言われなくても手伝うけどさ」

「じゃ、一台一台そっちへ送るから」


 まずは一台目、ミニバンに乗って音楽をガンガンにかけているカップル。最初から濃いのに当たってしまった。


「すみません、後ろで妊婦さんが病院に行けなくて困ってるんです。あそこを左に曲がってもらえないでしょうか? 別のルートへ誘導するので」


 自分で言っていてかなり胡散臭い文句だなと思った。面倒臭そうな顔をされ、無視される。これは粘っても仕方がない。そのまま前に進んでもらうしかない。カップル破局すべし。

 二台目は家族連れ。さっきと同じ説明だったが、今度は快く承諾してくれた。やはり産後は共感力が違う。

 三台目、仕事帰りらしきサラリーマン。渋滞に捕まってしまって機嫌が悪そうだったが、幸い了承を取り付けられた。


 動いてくれない車は放置して、立て続けに声をかけていく。快くお願いをきいてくれる人、無視する人、お願いはきいてくれるけれど交換条件とばかりにセクハラしていく人。弟はうまく誘導してくれているだろうか。





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