聖夜の更新2017 Faithful Service
ようやく仕事を終え、車と人でごった返す道を背中を丸めて歩く。こんな日にみんなで出かけようとするから渋滞になるのだ、ざまぁみろ、と心の中で悪態をつきつつ、ヘッドホンから滝廉太郎の『お正月』を爆音で流す。異世界の幻覚が目に入ってこないように。不愉快な幻聴が聞こえないように。
弟はあれだけ先に行けと言ったのに、結局わたしの仕事が終わるのを待っていたらしい。そういうところがいじらしくもあり、やはり持つべきものは弟であるとわたしが感じるところでもある。
しかしその感慨は、当の弟が待っていた場所で打ち崩された。
「よ。姉ちゃんお疲れ」
「お疲れ。駅で待ってろって言ったでしょ。なんでこんな不愉快な店の前で待ってるの?」
「そんな距離変わんないからいいじゃん。いやぁ、姉ちゃんにおもちゃ買って欲しいなぁと思ってさ」
「……バカじゃない?」
「ああ、バカかもな。でも周りがみんなバカ騒ぎしてるのに、自分たちだけ傍観決め込んでるのもバカバカしいと思ってさ」
「じゃ、あんたはどうぞ楽しんで。女の子に誘われたりしてるんでしょ? わたしは行くから」
「何人にも誘われたけど全部蹴ったよ。姉ちゃんと過ごすからってさ。今ごろ女子会でシスコン扱いかもなぁ」
「ホントにバカじゃない?」
「それより姉ちゃん、おれこのゲーム機欲しい。買ってくれ」
「断る」
「代わりにおれからも姉ちゃんにプレゼント買ってやるよ。この犬のぬいぐるみなんてどう?」
「いらない」
「おい、そこは『値段の差おかしい!』って突っ込むところだろ?」
「いらないものはいらないから」
「姉ちゃんあのさ」
「やめて」
「おれ、姉ちゃんとクリスマス祝いたい」
「……うちキリスト教じゃないでしょ」
「そのへんの文化的背景は知らんけど、クリスマスは家族で集まってケーキ食べたりプレゼント贈ったりするもんっしょ。それをやってみたい」
「集まる家族も二人しかいないんじゃ、楽しくないでしょ」
「おれは楽しいよ。姉ちゃんと二人でクリスマス祝えたら。だってたぶん今年で最後じゃん。姉ちゃんと暮らすの」
「……外の大学行かなきゃいいじゃん」
「まぁとりあえずこのぬいぐるみは受け取れ、プレゼントとして。あとで煮ようが焼こうがかまわねぇからさ」
「そんなこと言ったらホントに煮るよ?」
「だから構わないって……あ」
「今度はなに?」
「いや、すげー見覚えのある二人がいるなぁと思って」
「え? ……あ」




