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1996/2024

聖夜の更新2017 Faithful Service

 ようやく仕事を終え、車と人でごった返す道を背中を丸めて歩く。こんな日にみんなで出かけようとするから渋滞になるのだ、ざまぁみろ、と心の中で悪態をつきつつ、ヘッドホンから滝廉太郎の『お正月』を爆音で流す。異世界の幻覚が目に入ってこないように。不愉快な幻聴が聞こえないように。

 弟はあれだけ先に行けと言ったのに、結局わたしの仕事が終わるのを待っていたらしい。そういうところがいじらしくもあり、やはり持つべきものは弟であるとわたしが感じるところでもある。

 しかしその感慨は、当の弟が待っていた場所で打ち崩された。




「よ。姉ちゃんお疲れ」


「お疲れ。駅で待ってろって言ったでしょ。なんでこんな不愉快な店の前で待ってるの?」


「そんな距離変わんないからいいじゃん。いやぁ、姉ちゃんにおもちゃ買って欲しいなぁと思ってさ」


「……バカじゃない?」


「ああ、バカかもな。でも周りがみんなバカ騒ぎしてるのに、自分たちだけ傍観決め込んでるのもバカバカしいと思ってさ」


「じゃ、あんたはどうぞ楽しんで。女の子に誘われたりしてるんでしょ? わたしは行くから」


「何人にも誘われたけど全部蹴ったよ。姉ちゃんと過ごすからってさ。今ごろ女子会でシスコン扱いかもなぁ」


「ホントにバカじゃない?」


「それより姉ちゃん、おれこのゲーム機欲しい。買ってくれ」


「断る」


「代わりにおれからも姉ちゃんにプレゼント買ってやるよ。この犬のぬいぐるみなんてどう?」


「いらない」


「おい、そこは『値段の差おかしい!』って突っ込むところだろ?」


「いらないものはいらないから」


「姉ちゃんあのさ」


「やめて」


「おれ、姉ちゃんとクリスマス祝いたい」


「……うちキリスト教じゃないでしょ」


「そのへんの文化的背景は知らんけど、クリスマスは家族で集まってケーキ食べたりプレゼント贈ったりするもんっしょ。それをやってみたい」


「集まる家族も二人しかいないんじゃ、楽しくないでしょ」


「おれは楽しいよ。姉ちゃんと二人でクリスマス祝えたら。だってたぶん今年で最後じゃん。姉ちゃんと暮らすの」


「……外の大学行かなきゃいいじゃん」


「まぁとりあえずこのぬいぐるみは受け取れ、プレゼントとして。あとで煮ようが焼こうがかまわねぇからさ」


「そんなこと言ったらホントに煮るよ?」


「だから構わないって……あ」


「今度はなに?」


「いや、すげー見覚えのある二人がいるなぁと思って」


「え? ……あ」




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