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1995/2024

聖夜の更新2017 Each Priority

 前に一度だけ弟がクリスマスを祝おうとしたことがあった。確か高校一年生のとき、なにかこそこそしていると思ったら、クリスマスケーキを買ってきていたのだ。やつが初めてのバイト代で買ったらしいそれを、わたしは食べなかった。なにか酷い言葉を投げかけた気もする。わたしの気持ちを知っていてなお、そんなことをしようとする弟に幻滅して、しばらく口をきかなかった。

 弟が家族で祝うクリスマスというやつににわかに憧れていることには、もちろん気づいている。でも無理なものは無理なのだ。どんな理屈をこねられても、わたしはそれを楽しめない。




「尾先さん、今日も顔色よくないね。大丈夫?」


 またぼーっとしていたからか、主任が向こう側から声をかけてきた。


「いえ、ちょっと昨日飲み……」


 飲み過ぎたと言いかけて、口をつぐむ。危ない。会社早退して飲んでたとか、完全にダメ社会人の烙印を押されてしまうやつだ。


「のみ?」

「の、ノミがベッドに出まして」

「なんだそれ。ノミで体調悪くなるの?」

「退治しようと夜通し格闘してしまったんです」


 我ながら苦しい言い訳だ。


「バルサンたいたほうがいいよ」


 主任はいぶかしげな顔をしつつ、適切なアドバイスをくれた。


「仕事終わりそう?」

「いえ、さすがに夕方までに終わらせるのは厳しそうです。でも夜までにはなんとか」


 昼を手短に済ませた甲斐があった。一人で食べれば五分もかからない。


「終わらなかったら僕がやっとくから、行っていいよ」

「いや、主任こそいつ連絡がきてもおかしくない状況じゃないですか」

「まぁ、そのときはそのときだよ」


 主任がからりと笑ったそのとき、どこかでヤギの鳴き声がした。このエキセントリックな呼び出し音は、主任のだ。


「もしもし、僕だけど、どうした? え! 破水!?」


 噂をすれば。いよいよ、というか、よりによって、というか、このタイミングでホントに産気づくなんて。つくづくわたしの邪魔をする女だ。親が親なら子も子ということか。

 なぜかお汁粉がどうのこうのという話が聞こえてくるなか、この後の予定をリスケしつつ、おそらく頭を下げてくるだろう主任への対応を考える。


「はい! すみません、後はよろしくお願いします!」


 それだけ言うと、予想に反して、主任はわたしのほうを見もせずに職場を飛び出して行った。


「…………」


 まぁ、それはそうだろう。いざとなったら、彼が優先するのはわたしではなく彼女のほう。わたしはしょせん職場の同僚。よくてただの友達。

 雑念を振り払い、目の前の仕事に集中することに努める。夜には終わらせて、お父さんのところに行かないと。

 今日のわたしの最重要事項は、ただそれだけだ。



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