聖夜の更新2017 Repeted Conjecture
女子から相談を受けることは何度も経験しているが(そしてそれらはだいたいが話題作り、かまってほしいがための他愛ない悩みだったが)、自分の悩みを他人に打ち明けるのは初めての経験だった。
そういう弱みを見せる行為は好きな相手にしてしまうやつで、自分からしないほうがいいというのがおれのセオリーだったが、それだけおれにとって深刻な悩みであったし、それになにより彼女ならなにかしら良いアドバイスをくれる気がしたのだ。
「なるほどね。それで毎年ケーキ買えずに、ショーケースの前で立ちすくむ貧民街の少年みたいになっちゃうってわけ」
「名トランペッターの少年時代みたいなイメージやめろや」
「ちゃんとあなたの気持ち、伝えたの? 家族でクリスマス過ごしたいって」
「いや、おれそういうキャラじゃねぇし。姉ちゃんが嫌がることしたくねぇし」
「たまには弟がワガママ言ってくれるのも、お姉さんとしては嬉しいんじゃない?」
「だからそういうんじゃないって。おれの気持ちだって、姉ちゃんはとっくに分かってるよ。そこまで鈍感なやつじゃない。姉ちゃんが気づいてることに、おれは気づいてる」
「たしかにね、人の本音は言葉じゃなくて態度にこそ表れるものだけど」
「おう、そういうことだ」
「でもね、態度というのは気づかないふりができるものなの。言葉にして初めて向き合わなきゃならなくなることもある」
「……そうか」
「相手の気持ちを察するのは、確かに人の優れた能力だけれど、忖度に忖度を重ねてると、どちらの望む方向にもいけなくなるから気をつけなさい」
「忖度、してんのかな」
「少なくとも伝えたいことを秘密のままにしておくのは、家族っぽくないんじゃない?」
「うん」
「はい、私からはここまで。付き添いありがとう」
「家に上がってよかったら、まだ一緒にいてやっていいぞ」
「けっこうです。私たち夫婦の愛の巣に上がりこもうなんて二億年早いわ。電話すれば彼が飛んできてくれるから大丈夫」
「……ちぇ」
「拗ねないの。ほら、このケーキあげるから、二人で食べなさい」
「は? いらねぇよ。姉ちゃん絶対食わないし」
「それならそれでいい。私もさっきまでケーキ食べたい気分だったんだけど」
「けど?」
「なんか今日はね、食べられない気がしてきたんだ」
「そうか。元気な赤ちゃん産まれることを願ってるよ」
「あなたたちも、楽しいクリスマスを」




