聖夜の更新2017 Last Christmas
両親の命日だからと言って学校を早退きする必要はなかったが、どうしても寄りたい場所があったので午後の授業はサボることにした。最近繁華街にできたケーキ屋、女子たちが『一緒に食べにいこ!』とか元気よく誘ってきたそこに、一人でいる。予約しないとホールのクリスマスケーキは買えないらしかったが、キャンセルが出たのか、余ったらしいケーキがカットされてショーケースに何切れか並んでいた。
毎年クリスマスになるとついついケーキ屋に寄ってしまう。姉のクリスマス嫌いは知っている。前に一度ケーキを買っていったら、一人で食べるハメになった。思えばあれ以来買ってない。
しかし、来春からおれが大学進学でここを離れるとすれば、これが姉弟で過ごすラストクリスマスになるかもしれない。ラストクリスマス、アイゲブユーマイハートだ。一度でいいから家族と真っ当なクリスマスというやつを過ごしてみたいと思ってしまうのは、おれのワガママなのだろうか。
ガラスケースの前で砂糖菓子のサンタと睨みあっていたそのとき、『お、おひしそふ……』という間の抜けた声が横から聞こえた。
「あ、豚」
「豚じゃねぇよ。……なにしてんの?」
「クリスマスケーキ買いに来たの」
「いやいやいや、あんた臨月だろ。こんなとこ来て産気づいたらどうすんだ」
「そのときは周りの人が助けてくれるでしょ。家に一人でこもっているより、案外安全じゃない?」
「人様にも都合ってもんがあるだろ」
「ちょうどよかった。あなた、私が買い物終えるまでついてて」
「脈なしとわかってあんたに奉仕するほど暇じゃねーよ」
「なに、ようやく脈なしって気づいたの? この前私たち夫婦のやりとり覗いてたもんね」
「……そこまでわかってたのか」
「ううん、カマかけただけ。そっか。やっぱり見てたの」
「あんたホントに怖いな。あんときもおれを旦那への当て馬に使いやがって」
「彼に対してあなたごとき当て馬にもならないわ。あれは話のネタにしただけ」
「なお悪いんだけど。つか、あっただろ、あんたに手貸したこと」
「記憶にございません」
「スーパーで買い物手伝ってやったじゃん」
「ああ。あれはあなたが勝手にやっただけでしょ。私は頼んでない」
「さよけ」
「あなた、あの女の弟でしょ? 彼の同僚の」
「……それはいつから気づいてた?」
「最初から。声を掛けられたタイミングと、あの女に弟がいるっていう情報と、耳の形が同じことから」
「名探偵か」




