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1991/2024

聖夜の更新2017 Dead Christmas

 自動車もサンタのそりのように、空を飛べたらよかったのに、と思う。雪道にタイヤを取られてガードレールを突き破った父の車は、宙に浮かぶことなく崖を滑落した。街で買ったクリスマスプレゼントも、ケーキも、父親の体と一緒に潰れてしまった。


 そのときのことは、もう詳しくは思い出せない。ただ、父の名前を呼ぶ母の悲痛な声だけがまだ耳の奥に残っており、その母の腕のなかで泣き続けたのであろう自分の記憶は年々褪せていっている。弟だけは泣いていなかった。あのときはそれがどこか頼もしく感じて、いまだに辛くなると弟を抱きしめる癖が抜けない。


 父の命日は12月24日、母の命日は12月25日。世間が聖なるムードに包まれるこの日に、二人は事故で世を去った。クリスマスイブの夜、わたしたちの食卓にターキーやケーキが並ぶことはない。クリスマスツリーが飾られることもない。サンタが来たのも、父が死ぬ前までだ。

 毎年この二日間は、世界と自分との間に最も隔たりを感じる時間だ。カップルが目を輝かせ、子供たちがはしゃいでいる間、わたしはただ背を丸めて、クリスマスのきらびやかな光を嫌う怪物のように、15回にもわたる聖夜を過ごしてきた。彼ら彼女らを羨ましいと思ったことは一度もない。一度すらあってはならない。今日と明日は両親の命日なのだから。

 世の中にクリスマスを憎む男子女子は数あれど、わたしほどそのお祭りに無関心を貫いている人間はそういないだろう。クリスマスさえなければ父も母も死ななかっただろうけれど、もはやそのことを恨む気すら起きない。だから放っておいてほしい。メリークリスマスとか、声を掛けないでほしい。お前らは別の世界の住人だ。わたしとわたしの世界にはなんの関係もない。


 そんな聖夜にまた一つ、良いニュースが増えるのだろうか。職場の憧れの男性に、もうすぐ子供が産まれるらしい。実に喜ばしいことだ。話を聞くに、男の子だとか。立ち合い出産なのだとか。奥さんは大変らしいのだとか。二人は、幸せなのだとか。


 しかしそれらもわたしには、なんの関係もない話なのだった。




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