Only Two
12月はやっぱり、嫌な季節だ。
その日はたまたま、弟のナンパを覗こうとついてきていて。たまたま、彼と彼女が一緒に話しているところを見てしまって。そして必然的に、わたしが知らない彼の一面を、知ってしまった。
彼女と楽しくしゃべる彼。彼と楽しくしゃべる彼女。二人の世界は二人だけのものとしてそこにあり、だからわたしが入りこむ余地など、どこにもなかった。
「あー、姉ちゃん?」
「……なに?」
「そんなショック受けることないと思うぞ? 向こうが姉ちゃんの気持ちに気づいてなかったのは、やっぱりって感じだし」
「…………」
「普通、これから親になる男に手出そうとする女がいるとは思わないだろうし」
「それは、別に。わかってた」
「だ、だよな。いやー、これだから鈍感男は嫌だよなぁ。悪気なく人の想いをないがしろにしてくるもんだから」
「…………」
「おいー、泣くなよー」
「泣いてない!」
「じゃあこっち向けよ」
「触るな!」
「姉ちゃんまだいいほうじゃん。ほら、おれなんて当て馬呼ばわりだぜ」
「……いいじゃん。主任にフォローされてさ」
「そこに嫉妬すんな。でも確かに無駄に優しいな。自分の妻のことナンパした男かばうとか、正気か」
「そういう人なんだよ」
「まぁ姉ちゃんが惚れる理由はわかったよ。あれは確かに好きになる」
「こんな形で知りたくなかったなぁ。あの人の、秘密の一面」
「ついてこなきゃよかったんだよ。そうすりゃ傷付くのはおれだけで済んだのに」
「ふ、なに、あんたも傷付いたの?」
「本命の当て馬にされて傷付かない男っているの? 姉ちゃん好きな人に同じことされたら寝込むだろ」
「……うん、それは起き上がれなくなりそう。ていうか、なに彼女。わたしやあんたと話すときと全然キャラ違うじゃん。はは」
「ほんとに女って怖いな。どっちの顔が素なんだか」
「あの人も」
「ん?」
「ううん、あの人はきっと、あっちの顔が本物なんだろうな」
「……たぶんな」
「あの人、わたしと話すとき……」
「うん」
「あんな楽しそうな顔、しないよ」




