First Measles
愛の病とは言わないけれど、恋の病と言うのはなぜか。それは不治の病なのか、それともはしかのようなものなのか。
「ただいま……うわ、酒飲んでんの? って、もう二本空いてるし」
「おっとっうっとくーんっ! 弟くんさぁー」
「んだよ鬱陶しい絡み方だなぁ」
「あんたさぁ、恋したことある?」
「……は? 風邪でもひいたか?」
「恋の病には侵されてる」
「寝ろ。あったかくして」
「あー、酔っぱらいだと思って適当に考えてんなぁ? わたしは真剣に悩んでるのにぃ!」
「あほか。真剣に悩みたいなら飲むなよ。黙って虚空を見つめて脳みそしぼれよ」
「いいから質問に答えろ! 恋したことあるの!? ないの!?」
「……おれ、恋ってよくわかんないんだけどさ、どんな感じなの?」
「はぁー、やっぱりあんたもそっちの人間か」
「そっちってどっちだよ」
「自分から女の子好きになってないってこと」
「ああ、付き合うときに告白してないってこと?」
「違う! その子のことが好きで付き合ってるわけじゃないってこと!」
「は? 付き合う以上は好きでないと付き合えないと思うが」
「でも恋してないんでしょ?」
「だから恋ってなんだよ」
「その子のことが好きで好きでたまらなくていつも一緒にいたくて恋人がいたら関係壊してやりたくて自分のことだけ見て自分にだけ優しくしてほしいって思う感じだよ」
「なにその狂乱状態。そんな精神不安定なやつが世界にたくさんいるのか。地獄か」
「主任もいまの奥さんに恋したことないんだってさー。男ってみんなそうなの?」
「知らん。するやつはするんじゃないの? まぁそのうち冷めるんだろうけど」
「……冷めるの?」
「姉ちゃんはさ、その主任さんの仕事してるとこしか知らないからいろいろ私生活とか内面について夢見てるんだろうけどさ、人間なんてみんなだいたい考えることは同じだし、だいたいみんな似たような生活送ってるんだぜ? それを知ったらまぁ、そんな相手に憧れてばっかりもいられなくね?」
「別にそんな憧れてるわけじゃ……」
「違うの? じゃあなんで他の似たような男じゃなくてそいつなの? 他の男にはないものがある、って錯覚してるんじゃないの?」
「…………」
「ま、いい機会かもな。姉ちゃんあんまりそういうこと考えたことなさそうだしさ」
「うっさい。なんなの、偉そうに……」
「羨ましいんだよ」




