Necessary Condition
恋が結婚の必要条件でないのだとしたら、はたして愛とはなんだろうか。
「主任、大学時代なんのサークル入ってましたか?」
「ん、電子工作愛好会」
「電子工作……はんだ付けとかするやつですか?」
「あはは、まぁはんだ付けとかするやつって認識で間違ってはないかな。そこがある意味楽しいところではあるし。僕はあんまり回路弄らなかったけどね」
「プログラミングですか?」
「うん、マイコンのプログラミング。知ってる? マイクロ・コントローラ」
「わかんないです。なにに使うのかも」
「ミニ四駆を踊らせたり歌わせたりできる」
「はぁ……? そのサークル、女の子いました?」
「四年間通してゼロ。電子工作を愛するサイバー系女子には一人として会わなかった」
「なるほど。わたしと逆のパターンですね」
「男子がいなかったって意味? 尾先さんはなにやってたの?」
「手芸サークルでした」
「手芸……って、なにやるの?」
「友達とお菓子食べながら駄弁ります」
「へぇ、楽しそう。でも手芸ってなんだっけ?」
「いちおう冬は手編みのマフラーとか、手袋とか作ったりもしましたけど、特に目的のない活動内容でしたね」
「まぁ大学のサークルなんてそんなもんだよね。大会があるやつなんてそんなに多くないし、文化系ならなおさら」
「でも安心しました。主任もわたしと同じ灰色の大学生活を送ってたんですね」
「勝手に灰色にするなよ。サークル以外で出会いがなくはなかったよ。バイトとか」
「ああ、バイト……」
「大学時代アルバイトしてなかったの?」
「まさか。生活のためにやってましたよ、ホテルの清掃員とか、スーパーの品出しとか。でも奨学金免除してもらうための勉強と両立しなきゃいけなかったので、恋なんてしてる暇ありませんでしたね」
「恋って暇を持て余してするものなのか」
「うるさいですね。そういう主任は恋の一つや二つしたんですか?」
「舐めた発言をするようになったね、君も。恋したのは、うーん、大学ではたぶん、なかったかな……うん、ない、あれは違う」
「あれ?」
「いやなんでもない。たぶん恋したのって、高校のとき以来ないと思うよ」
「え? いまの奥さんって高校からお付き合いしてるんでしたっけ?」
「いや、彼女には恋愛感情持ったことない。たぶんね」
「は?」
「もちろん好きだけどさ、恋とは違うな」
「恋してないのに結婚したんですか?」
「うん。変かな?」
「……理解、できません」




