Practical Oriented
重要なのは会話を続けることだ。親密度を高めるには、話の内容や長さよりも接触回数がものを言う。もちろん理由もなく毎日おはようだのおやすみだの連絡すればいいというものではないが。
「お、またいた」
「またきた……。本当にしつこい豚」
「だーかーらー、心配してやってるんだって。別に鬱陶しけりゃ無視してくれていいよ」
「暇なの?」
「暇なわけあるか。こちとら大学受験控えてる身だぞ」
「だったら帰って勉強しなさい」
「ここでできなくはない。英単語覚えるとかな」
「無駄な努力してないで帰って模擬テストの一つもやりなさい。受験勉強の基本は試験の傾向と自分の苦手を把握してから対策すること。やみくもに暗記して勉強した気になってたら受かるものも受からない」
「へー、お姉さんそういうの詳しいの? もしかして実は有名な大学出てるとか?」
「少なくとも豚の志望校より偏差値高いとこでしょうね」
「お姉さんのマウンティングっぷり、もういっそすがすがしくなってきたな。ふーん、じゃあ教えてよベンキョー」
「一時間一万円ね」
「たっけぇ。ボディガードしてやってるんだからもう少しまけろ」
「旦那でもないのに私とおしゃべりできる上に勉強まで教えてほしいって、厚かましすぎるんじゃない?」
「お姉さんとおしゃべりしてるとお金もらいたくなってくるくらいなんだけど。お姉さんの旦那さんってどんな人なん?」
「優しくて楽しくて可愛くてツッコミ担当なATM」
「……最後のはなんだ。控えめに言ってその認識は酷くね?」
「豚には到底無理な役回りでしょう」
「うん、豚には無理だし、いくらお姉さんと話せてもなりたくねーよ、そんな存在。つかATMって……旦那さん聞いたら怒るだろ」
「怒りはしないけど、ツッコむでしょうね」
「冗談なのか本気なのか」
「冗談というのはいつもわずかな真実をはらむもの。他人の冗談には気をつけなさい」
「お、おう」
「そろそろ帰る。会話時間だいたい五分とちょっとか。千円寄越しなさい」
「なぜおれは夕暮れの川辺で妊婦にカツアゲされているのか」
「社会勉強させてあげたでしょ」
「実学志向か」




