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1976/2024

Brother Complex

 わたしはたぶん、いわゆるブラコンだ。就職のときにいまの仕事先を選んだときは、弟と一緒に住めることを最優先事項とした。大学進学のときもそうだった。たぶんいままで恋の一つもしなかったのは、弟と比べて良いと思えるような男が現れなかったからだろう。




「うん、今日はちょっと遅くなるから一人で食べてね。冷蔵庫? なんか入ってたんじゃない? なかったらてきとーに買って食べて。うん、じゃあね」


「弟さん?」


「はい、残業になりそうなので一応」


「そっか。なんか仕事残ってるなら手伝うよ?」


「気にしないでください。それより主任は早く家に帰ってあげなきゃダメでしょう」


「うん、ありがと」


「お礼言われるようなことしてませんよ。うちの弟なんて別に一人でご飯も作れますし、なんの問題もないです」


「弟さんって歳はどのくらい離れてるの?」


「えっと、五歳ですね、たぶん。いま高校三年生で、今年大学受験です」


「そっか。じゃあいま大変な時期か」


「全然そんな雰囲気ないですけどね。進学するつもりらしいですけど、まだ部活とかに顔出してるみたいですし」


「へぇ、熱心だね。何部?」


「軽音部です。熱心って言っても女の子に熱心なだけで。はは、わたしと違ってすっごくナンパなやつで、まったくなんであんなふうに育っちゃったんだか」


「兄弟に女の子がいると女性に慣れるところがあるんじゃないかな」


「……あー、なるほど。思うところがなくはないです」


「なくはないのか」


「主任って、兄弟いらっしゃるんですか?」


「いないよ。一人っ子。だから昔から兄弟には憧れてる部分があったな」


「ええ、いいですよ、兄弟」


「否定しないの珍しいね。僕の周りの人は僕が兄弟羨ましがるとだいたい『兄弟なんて鬱陶しいだけ』とか言ってくるんだけど」


「照れ隠しでしょう。いればいるほどいいとは思いませんけど、わたしは一人っ子でなくてよかったと思います」


「そっか」


「もし一人っ子だったら、たぶん潰れてました」


「弟さんのこと大好きなんだね」


「多少問題はあるけど、自慢の弟です。あ、これ本人の前じゃ絶対言わないんで、もしあいつに会うことがあっても余計なこと言わないでくださいね」


「うん。弟さん、もし遠くの大学に行っちゃったら寂しくなるね」


「そうなんです。まぁ、そろそろわたしも弟離れしないといけないですから。ちょうどいい時期だと思います」


「……そっか」


「思えば主任に会えたのもあいつのおかげみたいなところ、ありますね」


「ん?」


「なんでもないです」




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