Unhealable Pain
姉は十二月になると悪夢にうなされることが多くなる。街にあふれるクリスマスの空気にあてられて、両親のことと、事故のことを思い出すんだろう。
クリスマスイブの夜、街に遊びに行った帰りの峠道で、その不幸は起きたらしい。凍った路面でタイヤがスリップしたことによる崖からの転落事故。車を運転していた父親は即死だったとか。後部座席にいた姉とおれは母親にかばわれて無事で、母親は救急の電話をかけた後おれたち二人が凍死しないように見守って死んだとか。そういうよくある悲劇を小さい頃に祖母から聞いた記憶がある。
詳しい部分は俺の中では風化してしまったし、父親と母親なんて顔すら覚えていないが、姉を見ているとたまにそれが幸せなことのように思えてくる。事故のとき姉は六歳で、親しい人間が死ぬことの辛さを理解し、覚えるだけの知能を持っていた。おれも親という他人にあるものを持ってないことに少し寂しさを感じるときがなくはないが、失った人間よりは気にせずに済んでいるだろう。
悪夢を見ると、昔から姉は決まっておれの布団に入ってくる。そりゃ女慣れもするというものだ。
「…………」
「泣いてんの?」
「……またあの夢見た」
「ふーん。それで?」
「入れて」
「男の布団に潜り込んできて『入れて』とか、覚悟できてんだろうな」
「うっさいバカ。変なことしたらブッ飛ばすから」
「わがままか」
「黙って抱き枕になってろ……」
「いいけど、鼻水つけるなよ」
「つけない。鼻水なんて出てないもん」
「鼻すすりながらなに言ってんだ。ほらティッシュ」
「…………」
「よしよし……イテッ」
「変なことするなって言ったでしょ」
「落ち込んでるやつの頭撫でてやるくらいでバチ当たらないと思ったんだけどなぁ」
「わたしの頭撫でていいのはあの人だけだから」
「おい、男に抱かれてるときに他の男の話かよ。マナーがなってなイッ!?」
「抱かれてないわ! もういい! 涙止まった! 放せ!」
「おう帰れ帰れ! もう二度と入ってくんな! いい歳こいて弟抱っこしてメソメソしてんじゃねーよ! 早く他の抱き枕手に入れてこい!」
「それができたら苦労しないわ! あんたこそ実の姉に欲情するな! 当たってんだよ! キモいんだよ!」
「生理反応って仕方ないと思うんだよね!」




